鬼を狩る子孫 第一話 見えない請求書(5)

(5)
祠の前に立つ黒装束の男は、名を告げることなく悠夜に深い一礼をした。その姿は、まるで古より伝えられてきた「霧の守人(もりびと)」の化身のようでもあった。

幼き頃、祖母が炉端で語ってくれた話が脳裏をよぎる。
――霧村の一族には、代々「霧を渡る者」が現れる。彼らは災いを鎮め、村と社を護ってきたのだ、と。
だが同時に、その血を引く者は、重き宿命に縛られることになる。

黒装束の男は、静かに口を開いた。
「おぬしが霧村の嫡流――悠夜殿であるか」

声は低く、山の奥から響いてくるかのようであった。
悠夜は深く頷く。幼いころから家に伝わる系譜の巻物を見せられてきた。そこには「霧の小次郎」の名も記されていた。大江山の妖しを討った武人にして、同時に霧を自在に操る術を持つ守人。

創作小説の挿絵

男は、自らを名乗った。
「我が名は霧村悠太郎。小次郎の子にして、この祠を護りし守人のひとり」

悠太郎は祠の奥にある古びた木箱を指さした。
「そこに封じられておるのは、霧村の始祖が遺した勾玉じゃ。守人の証にして、祟りを退ける力を宿す。だが、使う者を誤れば、霧そのものが災いと化す」

「勾玉は独りの力では完成せぬ。人の心に宿る光を糧としてこそ、真の守りとなる」

悠夜は息を呑んだ。家伝の品はただの言い伝えと思っていた。しかし、それは現に目の前に存在し、そして自らの血筋へと手渡されようとしていたのである。

――己の一族が歩んできた道。
――霧の中に潜む宿命。
悠夜の胸に、祖先たちの気配が一層濃く立ち昇っていった。