鬼を狩る子孫 第一話 見えない請求書(6)

(6)
祠の奥に鎮められていた勾玉は、霧の奥から掬い取ったような淡青色をしていた。悠夜が手を伸ばすと、ひんやりとした冷気が掌に伝わり、霧そのものを握りしめたような錯覚に襲われた。

悠太郎は静かに語り出す。
「霧の小次郎が残した行跡は、ただ鬼を討ったというものに留まらぬ。彼は村々を巡り、人々の嘆きを聴き、時に祟りを鎮め、時に橋や堤を築き、暮らしを守った。力を恐れられながらも、最期まで村の側に立ち続けたのだ」

創作小説の挿絵
霧の小次郎

その言葉に、悠夜の胸に幼き日の記憶がよみがえる。祖母が話してくれた昔語り――「霧の守人」は鬼にも人にも等しく接し、災いを退けると。
だが同時に、その力を継ぐ者は孤独の道を歩む、とも。

悠太郎は、勾玉を包む布をそっと広げた。
「この玉は守人の証。受け継ぐということは、祖先の志を自らの命に重ねることに他ならぬ。問おう――悠夜よ、おぬしにその覚悟はあるか」

夜気は一層濃くなり、霧が祠の周囲にまとわりついた。
悠夜はしばし目を閉じた。祖母の面影、父の背中、そして代々続く家系の重みが胸に迫る。

「……私は、受け継ぎます」

その声はかすかに震えていたが、確かな響きを持っていた。
勾玉が淡い光を放ち、霧が祠の周囲をゆるやかに渦巻いた。

悠太郎は満足げに頷くと、霧の中へと身を溶かすように消えていった。
残されたのは悠夜と、手の中でかすかに脈打つ勾玉だけであった。