鬼を狩る子孫 第二部・過去編 第三章 南都の影(5)
第5回 勧進の金
南都の朝は早い。
寺の鐘が鳴ると、町が動き出す。
僧が歩き、荷車が通り、
職人が木槌を鳴らす。
東大寺の大仏殿は、まだ完全には戻っていない。
応仁の乱の戦火は京だけではなかった。
南都の寺院もまた、兵火と略奪にさらされた。
焼けた伽藍。
崩れた堂塔。
それを立て直すため、寺は勧進を行っている。
金を集め、材を集め、人を集める。
町のあちこちで、勧進僧の声が響いていた。
「南都再興のため!」
「大仏さまの御堂のため!」
権太はそれを見て笑った。
「寺も商売やな」
朔太郎は何も言わなかった。
寺は祈りの場である。
だが同時に、力の場でもある。
金が集まり、人が集まる。
そこには必ず、影も集まる。
玄之助は寺の門の脇に立っていた。
棒を肩にかけ、行き交う者を眺めている。
用心棒の仕事だ。
「暇そうやな」
権太が声をかけた。
玄之助はちらりと見ただけだった。
「おぬしか」
「勧進、よう集まっとるな」

玄之助は鼻で笑った。
「集めとるのは寺やない」
権太が眉を上げた。
「誰や」
玄之助は肩をすくめた。
「さあな」
だが、その目は笑っていない。
朔太郎は門の奥を見た。
大仏殿の方から、材木を運ぶ男たちが歩いてくる。
太い柱材だ。
何人もの男が掛け声をかけて担いでいる。
「重そうやな」
権太が言う。
玄之助はぼそりと答えた。
「重いのは木やない」
権太が首を傾げた。
「ほな何や」
玄之助は言った。
「金や」
その言葉に、朔太郎はわずかに目を細めた。
材木の後ろから、男たちが歩いてくる。
商人風の男。
僧。
そして武士。
三つの影が並んでいる。
「寺はな」
玄之助が言った。
「祈りで建つんやない」
棒を肩に乗せる。
「銭で建つ」
権太が笑った。
「夢のない話やな」
玄之助は答えない。
ただ言った。
「銭の匂いには、虫が寄る」
そのときだった。
門の向こうで、怒鳴り声が上がった。
材木を担いでいた男たちが止まる。
僧が慌てて走る。
何かが起きている。
権太がにやりと笑った。
「暇、終わりやな」
玄之助はすでに棒を持っていた。
朔太郎も歩き出す。
南都の風が、埃を巻き上げていた。
そして、その埃の中に――
小さく、血の匂いが混じっていた。


