鬼を狩る子孫 第一話 見えない請求書(1)

(1)
霧村悠夜(きりむら ゆうや)は、自分の名前があまり好きじゃなかった。
 「霧」も「夜」も、どこか冷たくて、さわっちゃいけないものみたいに聞こえるからだ。

 ましてや「霧の小次郎」の子孫だなんて、絶対に知られたくなかった。
 霧の小次郎──むかし大江山にいた妖術使い。
 人の心の闇をあやつり、鬼を呼び出した男。
 その子孫が自分だなんて、誰かに知られたら気味悪がられるに決まっている。
 いや……自分でも、ときどき怖くなるくらいだ。

 でも。
 蓮(れん)だけは、なぜか最初から平気だった。

 蓮は小学六年生。
 小さな背中に大きなランドセルを背負って、毎朝のように悠夜の通学路に待ち伏せしてくる。

 最初は「なんだコイツ」と思った。
 けど、話してみるとやたら元気で、よく笑って、変なことばかり言うやつだった。

 「なあ悠夜、おまえ……なんかヘンなの出てるぞ」
 「……ヘンなの?」
 「うん、もやもや〜って白いやつ! おばけのしっぽみたいでさ。でもなんかさ、それがカッコイイんだよ!」

 あまりに唐突で意味がわからなかった。
 けれど「気味悪い」じゃなく「カッコイイ」と言ったのは、蓮が初めてだった。

 だから悠夜は、それ以上否定しなかった。

創作物語の挿絵

──それからしばらくして。
 学校の空気が、少しずつ変わり始めた。

 給食の味が薄くなっている気がする。
 職員室の前では先生たちが小声で話し込んでいる。
 玄関先で保護者が声を荒らげているのも、何度も見た。

 「来年から学費が倍になるって……」
 「塾なんて行かせられないわよ……」

 耳に入るのは、お金の話ばかり。
 でも、それ以上に──空気そのものが重く感じられた。

 ふと、悠夜は校舎の屋上を見上げる。
 晴れているはずの空に、ぽつんと白い霧がただよっていた。
 誰にも見えていないはずの、その霧。

 「蓮……お前、あの霧……見えるか?」
 「え? うーん、なんか、モヤってる……かも?」
 蓮は首をかしげて目をこすった。

 「でもさ、オレこういうのワクワクする! なんか始まりそうじゃね?」

 悠夜は黙ってうなずいた。
 ──いやな予感がしていた。
 霧の向こうで、何かが目を覚ましかけている。