鬼を狩る子孫 第一話 見えない請求書(2)
(2)
次の日も、学校の空気はやっぱり変だった。
昇降口の前では保護者が集まって、またお金の話をしている。
「学費が……倍?」
「塾なんて、とてもじゃないけど……」
みんな顔をしかめていて、子どもたちは気まずそうにうつむいたまま通り過ぎていく。
教室に入っても同じだった。
声が小さい。笑い声がまったく聞こえない。
給食の時間、味噌汁はやっぱり薄く、パンはぱさぱさ。
牛乳だけがやたら冷たくて、手に持つと指先がしびれるくらいだった。
(これは……偶然じゃない)
悠夜の胸に、昨日の白い霧が浮かぶ。
どこかでつながっている──そんな気がしてならなかった。

*
五時間目の国語の時間。
先生が黒板に文字を書いていると、不意に悠夜の目に違う文字が飛び込んできた。
【支払い】
一瞬だけ、板書のすみに浮かんだ気がした。
次の瞬間には消えていて、ただの漢字練習の文が並んでいるだけ。
(……見間違いか?)
けれど、そのあと配られたプリントのはしっこにも、かすれた字でこう見えた。
【請求書】
慌てて目をこすったら、もうどこにもなかった。
周りのクラスメイトは、何も気づいていない様子でプリントに鉛筆を走らせている。
胸の奥がざわざわして、授業どころではなくなった。
放課後。
昇降口を出ると、蓮がいつものように待っていた。
「おーい、悠夜ー! 今日も帰ろーぜ!」
元気な声が、やけに場違いなくらいだった。
「なあ蓮。昨日の……あの霧、まだ覚えてるか?」
「は? 忘れるわけないだろ! てかさ、今日も出てんじゃん!」
蓮が空を指さす。
校舎の上、夕焼けに染まった空に、白い霧が渦を巻いていた。
昨日よりも濃く、大きく、形を変えながら。
「……ほんとに見えるのか」
「見えてるって! うわ、すげー! 人みたいになってきてるぞ!」
目をこらすと、確かに外套をまとった人影のようになっていた。
校庭に残っていた生徒たちは何も気づかないはずなのに、急に声をひそめ、足早に昇降口へと消えていく。
残されたのは、悠夜と蓮だけ。
影はゆっくりと二人を見下ろし、唇を動かした。
――《支払いは、始まった》
声は空からではなく、悠夜の胸の奥に直接響いてきた。
蓮はごくりとつばを飲み込み、でも目をそらさずに言った。
「なあ悠夜……やっぱさ、これっておまえに来た“へんなやつ”と関係あんじゃね? やべーよ、なんか始まっちゃったんだって!」
悠夜は返事をしなかった。
でも──蓮の言葉が正しいことだけは、はっきりわかっていた。


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