鬼を狩る子孫 第一話 見えない請求書(3)
(3)
その日の放課後、悠夜はランドセル……ではなく、教科書の重さでふくらんだカバンを肩にかけて、教室を出ようとしていた。
蓮が、ひょこっと後ろから飛びついてくる。
「なあなあ悠夜! さっきのプリント、持ってる?」
「……算数のやつ?」
「そうそう! ぜんっぜん意味わかんねーんだよ。『√』とか書いてあるけど、へんな記号ばっかじゃん!」
未来は机に広げたプリントを、鉛筆でぐりぐり突きながら騒いでいた。
確かに、そのプリントは妙だった。数式の間に、文字とも数字ともつかない、くねくねした記号が入り込んでいる。
「これ、算数じゃない……」
悠夜はつぶやく。
(ここで読者の皆さんは、小学六年生である蓮が、なぜ中学一年生の悠夜と同じ教室に居るのか不思議に思うと思われるので説明しておきますと、小中一貫校である彼らの学校では、小学生であっても希望すれば中学の教室に出入りすることが許されていたのです。)
プリントの紙から、うっすらと霧が立ちのぼっているのを、見逃さなかった。
「ほら、やっぱオバケのしっぽだ!」
蓮は目を輝かせている。
「こんなん配るなんて、先生ちょっとヤバいんじゃない?」
そこへ、タイミング悪く、廊下からコツコツと足音が近づいてきた。
竹内先生だ。
「おや、まだ残っていたのか。……プリントは、ちゃんと持ち帰るんだぞ」
にやり、と笑った口もとに、ほんの一瞬だけ鋭い牙のようなものがのぞいた気がした。
悠夜の背筋に、冷たいものが走る。
蓮は小声で、しかし楽しそうにささやいた。
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「なあ悠夜……オレたち、なんかスッゲー事件に巻き込まれてるんじゃね?」
放課後の校舎は静まり返っていた。
蓮はランドセルを背負ったまま、悠夜と並んで昇降口を出る。西日が長い影を二人の足元に落としていた。
「さっきの影……やっぱり気になるな」
蓮がぽつりと言う。
悠夜は頷き、校門を出ながら答える。
「放っておけない。山の社まで行こう。あそこなら、きっと手がかりがある」
二人は歩調を合わせ、校舎の裏手に広がる山道へと入った。小鳥の声もすでに少なく、木立の間を抜ける風が不思議な低音を奏でている。
蓮は少し息を切らしながら問いかけた。
「悠夜……。前から聞こうと思ってたんだけど、“あれ”ってなんなんだ? 今日みたいに物を動かしたり、影になって現れたり……」
しばらく沈黙が続いた。
やがて悠夜は足を止め、振り返って蓮を見た。
「蓮……お前に話しておかないといけないことがある」
蓮は目を見開いた。
「この村には昔から伝わる話がある。人の形をした影が、山と里を行き来して、人の心に入り込む……。それを“影喰い”って呼んでるんだ」
「影喰い……?」
蓮はごくりと喉を鳴らした。
悠夜の声はいつになく真剣で、冗談ではないことがひしひしと伝わってくる。
「俺の家は代々、その“影喰い”に関わってきた。見張る役目を負わされてるんだ。だから――お前が今日見たものも、きっとその一部だ」
風が一層冷たく吹き抜け、木々の影が二人の足元でざわめいた。
蓮は思わず悠夜の横に寄る。
「じゃあ……これから俺たち、どうなるんだ?」
悠夜は前を向き、山の奥を指さした。
「真実を確かめるんだ。俺と一緒に」

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