鬼を狩る子孫 第十一話 相模川(最終回)
発見者のその後
発見者の名前は、
いつの間にか記事から消えていた。
最初の報道では、
「地元在住の男性」
「散策中に偶然発見」
とだけ書かれていた人物だ。
悠夜は、
その後の記事をいくつか読み比べていた。
「……名前、
出てないですね」
嵐山は、
小さく頷いた。
「出す必要が、
なくなったからや」
杭はすでに、
“発見者のもの” ではなくなっている。
行政。
研究機関。
報道。
扱う主体が変われば、
語られる視点も変わる。
「じゃあ……」
真衣が言う。
「その人は、
どうしてるんですか?」
嵐山は、
一瞬だけ考えてから答えた。
「たぶん……
何も変わっとらん」
三人は、少し意外そうな顔をした。
「英雄にもならん。
罪人にもならん」
「調査が進めば、
“発見した人” として
名前が残ることもない」
嵐山は続ける。
「せやけどな」
声が、少しだけ柔らぐ。
「その人自身は、
分かっとるはずや」
――これは、
思っていた話と違った。
――大きな橋でもなかった。
――頼朝の時代でもなかった。
――けど、
何かを “見つけた” ことだけは、
確かやった。
「がっかり……
しませんかね」
蓮が言う。
「するやろな」
嵐山は正直に言った。
「せやけど、
それでええ」
三人を見る。
「発見いうのはな、
拍手されることやない」
「ただ、
そこにあったものに
気づくことや」
悠夜は、
相模川の方角を思い浮かべた。
川は、
今日も流れている。
誰に見つけられなくても。
名前を付けられなくても。
「発見者はな」
嵐山は、静かに締めくくった。
「歴史を動かしたんやない」
「ただ、
“問い” を置いただけや」
――これは何か。
――どこから来たのか。
――なぜ、ここにあるのか。
答えが出なくても、
問いは残る。
それで十分や、と。
夕暮れの光が、
堤防の草を赤く染めていた。
川は、
もう語らない。
だが、
語られ方が変わった。
それだけで、
この出来事は
終わってよかったのだ。
悠夜は、
ノートを閉じた。
――相模川。
それは、
橋の物語ではなかった。
流れと、
人の読み違いと、
それに気づくまでの
時間の物語だった。
川は、
今日も相模川
名もなく流れている。
本稿 完
古相模川の堤防は現在も痕跡をいくつか残しています。次の写真は茅ケ崎柳島で現在道路になっている古堤防です。

平塚側でも、現在の本流の西側にしっかりした堤防が作られていました。下の馬入村小字の地図には堤防跡が記されています。

その堤防は現在は「馬入緑道」と呼ばれる1kmにわたる遊歩道として整備されています。



