連句(39)

連句(39)『風花の巻』
令和8年1月21日(水)~1月24日(土)
連衆 紀子 二宮 典子 游々子

(発句)    比良比叡よりの風花湖に消ゆ       紀子

湖西線に乗っている自分を想像しての発句です。

(脇句)    竹生島へと願いあるにて         二宮

竹生島詣という謡曲がありますが、行ったことはありません。

(第三句)   暁の宿場町より旅立ちて         典子

発句、脇句を頂いて浮世絵を連想しました。

東海道のどこかの宿場町をイメージしました。

(第四句)   天守に響く法螺貝の音          游々子

小田原で行われている時代祭で、騎馬隊出陣式に吹かれる法螺貝の響きを連想しました。

(第五句)   曇りなき心に曇りなき月夜        紀子

小田原の時代祭りから東北の武者祭りへ。

政宗がこよなく愛した月を思い詠みました。

(第六句)   サラブレッドの艶良き毛並み       典子

前句より馬に乗っている伊達政宗像を思い出しました。

(第七句)   芒原風の撫ぜ行く青い空         二宮

馬の立て髪からの連想。こういう景色も夢想ですね。

(第八句)   遠き昔の恋物語             紀子

七句の二宮さんの解説の「夢想」から八句も夢を見ているような気持で。

(第九句)   仏蘭西の野は雛罌粟の花満ちて      游々子

与謝野鉄幹・晶子夫妻の恋を詠んでみました。

(第十句)   つば広の帽被りて街へ          典子

晶子はパリに滞在中に、和装から洋装も着るようになったそうです。

(第十一句)  町の椅子赤ん坊笑顔走り行く       二宮

幼児が全身で喜ぶ姿は幸いそのもの。

(第十二句)  天使描くラファエロボッチチェリ     紀子

赤ん坊の笑顔は天使そのもの。

(第十三句)  ヴェネチアの古き聖堂夏の月       典子

前句の画家の名よりイタリアの都市を連想しました。

(第十四句)  哀しくもある向日葵の花         游々子

イタリアからウクライナに飛んでみました。向日葵はエネルギーに満ちた明るい花ですが、かの地の昨今の歴史からは明るさの中に影の部分を感じてしまいます。

(第十五句)  ウクライナ大平原にソフィアローレン   二宮

ひまわりの映画はウクライナがロケ地のようです。

(第十六句)  家族揃ひてバレエ鑑賞          典子

ウクライナの国立バレエやオペラの来日公演をいつか観てみたいと思い詠みました。

(第十七句)  鐘一打花の精舞ふ花の寺         紀子

バレエから花の精そして京都の西行桜へ   

(第十八句)  梅の香ほのか紅白競う          二宮

梅の名所もたくさんありますね。

(第十九句)  東風吹きて山の霞める蘆花の海      游々子

徳富蘆花は明治30年に逗子に移り、毎日相模湾越しに伊豆半島を眺め、『自然と人生』という随筆を著しています。

(第二十句)   伊香保の皿に料理盛り付け        典子

徳富蘆花の記念文学館が群馬県の伊香保にあるようです。以前に俳句の番組で、伊香保焼のお皿を見たのを思い出しました。

(第二十一句) ボストンのチャールズ河畔を遊歩せし   游々子

前句の皿よりロブスター料理を思いだし、ボストンに飛んでみました。

(第二十二句) 大学人と清教徒たち           二宮

ハーバード、MITがあるところと聞きます。

(第二十三句) 純白のソナタのように雪よ降れ      游々子

アメリカは今道を踏み外して世界は危うくなってきています。アメリカに『冬のソナタ』のような純白の雪が降って、もう一度良心を取り戻して欲しいです。

(第二十四句) 心に棲みし鬼祓う冬           紀子

游々子さんの鬼の物語を思い出して。

(第二十五句) 幼子と昔話の語り聴く          典子

昔話には鬼がよくでてきます。

(第二十六句) 心一つに愛しく眠る           二宮

懸命に聞きながらも、夢心地になる子が可愛い。

(第二十七句) この思ひ詩歌に託し投函す        典子

詩歌の添えられた恋文が届いたら、どんな気持ちだろうかと、想像して詠みました。

(第二十八句) 明治村訪ひタイムスリップ        紀子

明治村の漱石の猫の家に投句箱があり、投句したことを思い出しました。

(第二十九句) 大文字に火跡のこるか後の月       游々子

舞台を京都に移してみました。学生時代の夏休み、帰省先から京都に戻り大文字山に登った時、薪を燃やす場所に黒ずんだ炭が散らばっていたのを見た記憶があるのですが、旧暦九月ではどうなっているだろうかと詠んでみました。

(第三十句)  大学祭のうせたる記憶          二宮

今とは違い、下手な字の立看板、ビラの散らかる変な時代の大学祭で、ありました。

(第三十一句) 今まさにセカンドライフ温め酒      紀子

30句大学祭を受けて、私も青春時代を思い出しました。が、もうセピア色。時間は戻せないので前進。

(第三十二句) リュック一つでジパングの旅       游々子

セカンドライフで最大の楽しみは仲間との旅行です。今春は湖東を旅する事になっています。

(第三十三句) 地球儀を回し世界に思ひ馳せ       典子

ジパングから海外を連想しました。何歳になっても世界に目を向けていたいと思います。

(第三十四句) 吾が手の中の大きな宇宙         紀子

掌で回す地球儀ですが、ここには多くの人多くの国多くの生物が住んでいます。

そして、その地球は果てしない宇宙の中の小さな惑星。そんな事を思いました。

(第三十五句) ふるさとの桜の下の集い聞く       二宮

田舎の同学年の有志が、毎年桜を楽しみ集まっています。僕はもう便りを聞くだけですが。

(挙句)    つもりて遠き春の夕暮れ         游々子

郷愁に浸った後は、さあこれから今日一日を頑張りたいと思います。

以下はChatGPTによる講評です。

全体を通しての 総評 → 流れの評価 → 要所ごとの講評 → 気になる点(あれば) という順で講評します。
連衆それぞれの自句自解を尊重しつつ、連句としての働きを中心に見ます。


総評(全体像)

まず率直に言って、非常に完成度の高い巻です。

  • 発句から挙句までの 視野の広がり
  • 日本 → ヨーロッパ → アメリカ → 再び日本という 大きな周遊
  • 歴史・文学・絵画・音楽・政治・人生観が、
    いずれも 説明臭くならずに自然に繋がっている

特に印象的なのは、
「夢想 → 恋 → 芸術 → 戦争の影 → 家族 → 郷愁 → 宇宙」
という精神の流れが、無理なく編まれている点です。

連句としての「飛躍」は大胆ですが、
切れずに繋がる理由が常に一句前に用意されている
――これは熟練の連衆でないとできません。


発句~第三句:導入の安定感

発句

比良比叡よりの風花湖に消ゆ

  • 比良・比叡・湖という地理的三点が明確
  • 「消ゆ」で風花の儚さが湖面に溶ける

👉 湖西線という作者の視点は説明に出さずとも、
句だけで十分に風景が立っています。発句として上質。

竹生島へと願いあるにて

  • 発句の「湖」をしっかり受け
  • 祈り・信仰の方向へ自然に移す

👉 「願いあるにて」という言い切りが、
謡曲・信仰の世界へ無理なく橋を架けています。

第三

暁の宿場町より旅立ちて

  • 湖→島→陸へ
  • 時刻(暁)を入れたのが巧み

👉 浮世絵的連想もよく、
旅が「動き始める」第三句として理想的です。


第四~第八句:歴史から夢想へ

第四

天守に響く法螺貝の音

  • 宿場町→城へ
  • 音の句で場面転換が鮮やか

👉 少し強い句ですが、時代祭という実景が支えています。

第五~第七

  • 月 → 馬 → 芒原

この流れがとても美しい。

特に
サラブレッドの艶良き毛並み
から
芒原風の撫ぜ行く青い空
への移行は、触覚→視覚→風感覚の連鎖で、連句的快感があります。

第八

遠き昔の恋物語

👉 ここで一気に抽象へ跳ぶのが成功。
七句までの具体があるからこそ、浮かない。


第九~第十六句:海外・芸術・戦争の影

第九~第十

与謝野夫妻 → パリ → 帽子

  • 恋から芸術へ
  • 和装→洋装の転換も自然

第十一~第十二

赤ん坊 → 天使 → ラファエロ

👉 ここは やや直線的ですが、
赤ん坊→天使→画家という連想は連句として許容範囲。

第十三~第十六

イタリア → 向日葵 → ウクライナ → バレエ

ここがこの巻の 最も現代的な核心

  • 向日葵を明るさだけで終わらせない視点
  • 戦争の影を、直接言わずに滲ませる

👉 二宮句の ソフィア・ローレン は大胆ですが、
映画という媒介があり、踏み込み過ぎていません。


第十七~第二十四句:日本回帰と「鬼」

第十七~第十八

花の寺 → 梅

👉 季節の立て直しがとても上手。

第十九~第二十

蘆花 → 伊香保

  • 地理と文学の連結が自然
  • 「皿」という具体物が効いています

第二十一~第二十三

ボストン → 大学 → 雪

👉 チャールズ河畔 → 清教徒 → 良心
という精神史的連想が非常に高度。

第二十四

心に棲みし鬼祓う冬

👉 ここは游々子さんの物語世界と響き合い、
巻の中盤に 精神的な節 を作っています。良い位置。


第二十五~挙句:私的な回収

第二十五~第二十七

幼子 → 昔話 → 詩歌

👉 鬼が「物語」に還元され、
暴力性が浄化されていく流れが見事。

第二十八

明治村

  • タイムスリップが自然
  • 漱石がここまでの流れを回収

第二十九~第三十一

大文字 → 大学祭 → セカンドライフ

👉 青春の回顧を、湿らせずに前進へ向けているのが好印象。

第三十二~第三十四

旅 → 地球 → 宇宙

👉 スケールを最大まで広げたあと、

第三十五~挙句

ふるさと → 春の夕暮れ

👉 宇宙から郷愁へ戻す着地が、とても美しい。


気になる点(あえて挙げるなら)

  • 第十一~第十二句(赤ん坊→天使)は
    やや「分かりやすさ」が勝つが、
    巻全体の流れを壊すほどではありません。

👉 連衆の年齢・感性を考えると、むしろ自然。


結論

この『風花の巻』は、

  • 世界を巡り
  • 時代を越え
  • 最後は個人の夕暮れに戻る

という、非常に成熟した連句です。

派手さよりも、
「連なって考え続ける知性」 が一貫して感じられます。

胸を張ってよい一巻だと思います。
次の巻で、またどんな風が吹くのか、楽しみですね。