連句(42)

連句(42)『春隣の巻』 
令和8年2月21日(土)〜2月23日(月)
連衆  典子 紀子 游々子 二宮

各句のコメントは自句自解です。

(発句)    奈良町のカフェの玻璃窓春隣       典子

もう少し暖かくなったら歴史ある町に出かけたいと思っています。奈良町も行ってみたい町の一つです。

(脇句)    庚申さんを貰ひ節分           紀子

奈良町の家々の軒には、家族の人数の庚申ざるが吊るされています。手作りだったり、お宮さんで頂くようです

第三句)   歩荷ゆく木道の巾は二尺にて       游々子

春になり山小屋が開かれて来ると、尾瀬などでは歩荷(ぼっか)と呼ばれる人が身長の2倍にもなる大きな荷物を背負って、木道を往き来します。その木道の巾は二尺であると詠んでみました。

(第四句)   先人の跡背に偲びつつ          二宮

道を作り、維持する労苦をしのびます。

(第五句)   夜行バス降りて見上ぐる今日の月     典子

前句、前句自解より高速道路、サービスエリアを連想しました。

(第六句)   奥入瀬くだる落鮎の群          游々子

前句の夜行バスより遠くへの旅が連想されて、奥入瀬まで飛んでみました。

(第七句)   地虫鳴く一書読み了へたる時に      紀子

飛んで場面転換しました。     

第八句)   恋のお題で時間を逆に          二宮

(第九句)   『春琴抄』後ろの席で一人観る      典子

前句より五十年近く前のことを思い出しました。当時三浦友和さんが好きで、一人で映画を見に行きました。

(第十句)   長谷川櫂の俳句入門           游々子

前句より谷崎の『文章読本』を50年前に読んだことを思い出しました。そういえば長谷川櫂には『俳句的生活』という本があったなあ。。

(第十一句)  心に描く旅は奥のほそ道        紀子

俳句をしている自分を振り返って、もう少しちゃんと芭蕉を学んでから、

いつかは奥の細道へ行きたいと思っています。

(第十二句)  土産にうれし草加煎餅          典子

芭蕉は草加宿が好きだったと読んだことがあります。

(第十三句)  縁台の駒音高く夏の月          游々子

芭蕉さんから離れて時代を昭和に移しました。昭和30年頃は道端に出した縁台で夕涼みをしながらの将棋が流行ったものでした。

(第十四句)  蚊帳を吊りたる事は昔に          紀子

前句の解説から、私が子どもの頃の思い出の一つを絡めて詠みました。

(第十五句)  りんご箱燃やし焼き芋店の前        二宮

車も少ない田舎町。りんご箱での焚き火が近所の語らいの場でした。

(第十六句)  令和となりてまたも皸(あかぎれ)      游々子

子供の頃は冬には手にアカギレが出来るのが定番でしたが、70年の歳月を経て、またもアカギレが出来る様になってしまいました!

(第十七句)  初花と聞けば心の落ち着かず        典子

家の近くの桜でも、「あそこの桜が咲き始めたよ」と聞くと、すぐに見に行きたくなります。

(第十八句)  句帳片手に春の吟行            紀子

昨日の吟行を思い出しての一句です。

(第十九句)  ひそやかに新芽開くを眺めたし       二宮

いろんな草木の新芽、蕾がこれからですね。

(第二十句)  ジュリーの歌の流るアルプス        游々子

前句からサウンド·オブ·ミュージックのオープニングの場面を連想しました。

(第二十一句) 青空に靡きし赤十字の旗          紀子

青空とスイスを連想しました。

(第二十二句) いろんな風に雲の行き交い         二宮

靡く旗で風を連想です。

(第二十三句) 春近し櫂打つ湖も霊山も          游々子

ボート部エイトの琵琶湖での晩冬の練習風景です。

(第二十四句) 八重水仙の小さく揺るる          典子

先日、知り合いが畑にいる時に通りがかりました。咲いている八重水仙を2本頂き、春を感じました。

(第二十五句) 菅浦の隠れ里にて惣の人          二宮

白洲正子、のテレビにも紹介がありました。今はどうなっているか?

(第二十六句) 巻き戻したき時間も恋も          紀子

時が止まったままのようなかくれ里から、一瞬思った事です。

(第二十七句) 木曽殿の夢にさすらふ大野原        游々子

芭蕉の木曽殿(木曽義仲)への憧憬を恋として詠みました。芭蕉が死の間際にみた枯野の夢には、木曽殿の面影が現れたのではないかと想像してみました。

(第二十八句) 能楽堂に余韻の満ちて           典子

義仲より巴御前を思い出し、能の演目「巴」を知りました。

(第二十九句) 新蕎麦に月を添えたる善光寺        二宮

また、善光寺への坂道を歩いてみたいもの。

(第三十句)  余花朗亭に酌む今年酒           紀子

浪の音酒造を詠みました。

(第三十一句) 湖の夕日の中の渡り鳥           典子

余花朗亭のある琵琶湖、特に湖北には渡り鳥がたくさん飛んでくるそうです。

(第三十二句) 語り終わらぬつがいのことば        二宮

鳥語もさまざまと思います。

(第三十三句) 振り分けの背に浅間の三筋たつ       游々子

つがいから雷鳥→立山と連想しましたが、それでは付きすぎと思い、つがい→縄張り→渡世の方向に連想を変えて、股旅の世界を句にしてみました。

(第三十四句) 靴紐固く結び直して            典子

前句より、緩んできた靴紐を結び直し、あと少し旅を続ける様子をイメージしました。

(第三十五句) 遊子となりて眺む花の雲海         紀子

行った事がないのですが、前句の続き、靴紐を結び直して小諸城懐古園まで行きました。その城址の石垣の上から眼下に広がる桜を眺めたつもりで詠みました。

(挙句)    峠登りて初音聞く旅            二宮

雑木林に小鳥の声を聞く。


以下はChatGPTの講評です。

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第四十二巻『春隣の巻』、全体を通して拝見しました。

まず結論から申しますと、

旅と時間の往還が主軸となった、伸びやかな巻です。
特に中盤以降の流れが安定しています。

以下、構成・運び・課題の順で講評いたします。


【全体構造】

  • 発句:都市的・ガラス越しの春待ち
  • 山(第三〜第四)
  • 旅(第五〜第六)
  • 文芸・恋(第八〜第十一)
  • 昭和回想(十三〜十六)
  • 春吟行(十七〜二十四)
  • 歴史・能・善光寺(二十五〜二十九)
  • 琵琶湖・鳥(三十一〜三十二)
  • 股旅・浅間(第三十三)
  • 旅の締め(挙句)

全体は

春隣 → 旅心 → 文芸 → 時代回想 → 再び旅 → 春の初音

という大きな円環構造になっています。

これは良い設計です。


【発句・脇】

発句

奈良町のカフェの玻璃窓春隣

「玻璃窓」が効いています。
古都×現代カフェの取り合わせも新鮮。

やや説明感はありますが、巻の入口としては良好。


庚申さんを貰ひ節分

奈良町の具体性を受けて成功。
季節も「春隣」→「節分」で自然。

脇として安定。


【三〜四】

歩荷ゆく木道の巾は二尺にて

数字「二尺」がやや理屈寄り。
連句では説明が出ると流れが硬くなります。

ただし、

先人の跡背に偲びつつ

で情に戻したのは良い処理。


【五〜六】

夜行バス降りて見上ぐる今日の月
奥入瀬くだる落鮎の群

五は非常に良い。
現代的で孤独感があり、巻の調子を上げています。

六はやや「飛びすぎ」。
奥入瀬+落鮎で情報量が多い。

しかし、連句的跳躍としては許容範囲。


【七〜十】

ここは文芸パート。

『春琴抄』は効果的。
恋への転換も自然。

ただし、

長谷川櫂の俳句入門

固有名がやや説明的で、連句としては重い。

もう一段ぼかしても良かったかもしれません。


【十三〜十六(昭和回想)】

ここはこの巻の名場面。

縁台の駒音高く夏の月
蚊帳を吊りたる事は昔に
りんご箱燃やし焼き芋店の前
令和となりてまたも皸

時間の層が非常に美しい。

特に

令和となりてまたも皸

は個人的実感があり、良句です。

ここが巻の一つの山。


【二十三〜二十四】

春近し櫂打つ湖も霊山も
八重水仙の小さく揺るる

「櫂」と「櫂(前句との音の呼応)」が効いています。

ただ、「湖も霊山も」はやや大づかみ。


【二十五〜三十】

歴史パート。

やや固有名が続き、少し説明的になります。

特に

  • 善光寺
  • 余花朗亭

と続くあたりは少し密。

しかし破綻はありません。


【三十三以降】

振り分けの背に浅間の三筋たつ

これは良い。

股旅世界と浅間山の煙。
視覚が強い。

ここで巻が締まりました。


【挙句】

峠登りて初音聞く旅

非常に良い締めです。

「春隣」から始まり「初音」で終わる。

構造として完成しています。


【総合評価】

良い点

✔ 旅の軸が一貫
✔ 時代の往還が自然
✔ 昭和回想部が秀逸
✔ 初音で春へ収束


改善点

✔ 固有名がやや多い
✔ 数字・具体説明が時に硬い
✔ 情の句と情報の句の差が出る


【完成度】

構成力:8.5/10
流れ :8/10
句質平均:7.5/10
巻全体完成度:8.3/10

かなり良い巻です。


もしさらに上を目指すなら、

  • 固有名を一箇所削る
  • 数字句を少し柔らかくする

で、完成度はもう一段上がります。


游々子さんとしては、

第三句と第二十三句にもう一工夫したいところではありませんか?

そこを詰めれば、代表巻になります。