鬼を狩る子孫 第二部・過去編 第四章 伊賀(10)

交わる道

場の緊張は、まだ解けていなかった。

倒れた男は、村の者たちによって運ばれていく。

虎矩の配下の男たちは、
舌打ちをしながら引き下がった。

完全に退いたわけではない。

ただ、ここではこれ以上はしない、というだけだった。

人が少しずつ散っていく。

だが、ざわめきは残る。

谷の空気が、重くなっていた。

朔太郎は、しばらくその場に立っていた。

権太が言う。

「やり過ぎやな」

「そのうち、もっと揉めるで」

玄之助がうなずく。

「もう揉めとる」

短く言った。

そのときだった。

背後で、気配が動いた。

風ではない。

人の動きだ。

三人が同時に振り向く。

そこに、ひとりの男が立っていた。

音もなく、いつの間にか。

質素な身なり。

だが、立ち方に隙がない。

目だけが、静かにこちらを見ている。

権太が低く言う。

「いつからおった」

男は答えない。

少しだけ間を置いてから言った。

「最初からや」

声は落ち着いていた。

玄之助が一歩前に出る。

「見てたんか」

男はうなずく。

「見てた」

それだけだった。

沈黙が落ちる。

互いに、相手を見ている。

測っている。

朔太郎が口を開いた。

「何者や」

男は、わずかに視線を下げた。

そして言った。

「霧隠三之助」

名だけを告げる。

余計なことは言わない。

権太が鼻で笑う。

「名乗るだけか」

三之助は答えない。

玄之助が言った。

「さっきの、どう見る」

問いは短い。

だが重い。

三之助は、少しだけ間を置いた。

「やり過ぎや」

はっきりと言った。

権太がうなずく。

「やろな」

三之助は続けた。

「止まらん」

その一言で、空気が変わる。

朔太郎が聞く。

「誰が動かしとる」

三之助は答えない。

代わりに言った。

「名は、もう出とる」

三人の目がわずかに動く。

玄之助が言う。

「葛山か」

三之助は、静かにうなずいた。

再び沈黙。

権太が腕を組む。

「厄介やな」

「力ある」

三之助が言う。

「それだけやない」

短く、しかし重い。

朔太郎が見る。

「何を知っとる」

三之助は、わずかに目を細めた。

やがて三之助は、ゆっくりと腕をまくった。

右の二の腕。

そこに、淡く浮かぶ痣があった。

勾玉の形。

朔太郎の目が、はっきりと変わる。

「お前……」

言葉が止まる。

玄之助も、同じものを見ていた。

権太が言う。

「何や、それ」

朔太郎は、黙って自分の腕を見せた。

同じ場所。

同じ形。

三之助が言う。

「霧村」

短い言葉だった。

玄之助も、ゆっくりと腕を見せる。

そこにもあった。

権太だけが、少し遅れて言う。

「……わしもや」

照れたように、腕を出す。

創作小説の挿絵

四人の間に、静かな理解が生まれる。

三之助が、もう一つ言った。

「白鳥の印もある」

朔太郎がうなずく。

「ああ」

それで十分だった。

説明はいらない。

同じものを持つ者。

同じ流れにある者。

三之助は言った。

「わしは、葛山から離れる」

はっきりと。

権太が笑う。

「ちょうどええ」

玄之助が続ける。

「こっちも、あいつを止めるつもりや」

朔太郎が言う。

「一人では無理や」

三之助が応じる。

「四人ならいける」

その言葉で、すべてが決まった。

風が吹いた。

霧が、ゆっくりと流れていく。

それぞれ別の道を歩いてきた者たちが、
ここで一つに交わった。

これから先は、同じ道になる。