鬼を狩る子孫 第二部・過去編 第四章 伊賀(13)
討ち入り
夜は、早く下りてきた。
谷にはまだ昼のざわめきが残っている。
だが、それは恐れではなかった。
怒りと、決意だった。
葛山虎矩の屋敷は、静まり返っていた。
昼の騒ぎはすでに伝わっている。
配下の者たちも、落ち着きを失っていた。
門の前には人が集まり始めている。
村の者たちだ。
誰も声を荒げない。
だが、誰も帰ろうとしない。
その様子を、少し離れた場所から四人は見ていた。
権太が言う。
「もう逃げ場ないな」
玄之助がうなずく。
「中も揺れとる」
三之助は、屋敷を見ていた。
灯りの動き。
人の気配。
「今や」
短く言う。
四人は動いた。
今度は、隠れない。
正面からだ。
門の前に立つ。
見張りの男が声を上げる。
「何や、お前ら」
だが、その声は強くない。
背後の気配に気づいている。
朔太郎が言う。
「通るで」
短く。
男は、動けなかった。
押し返す力が、もう残っていない。
四人は門をくぐる。
人の目が集まる。
背中に、村の者たちの気配がある。
庭に入る。
配下の男たちが集まってくる。
だが、まとまりがない。
「止めろ!」
誰かが叫ぶ。
だが、誰も前に出ない。
権太が一歩出た。
「来い」
一言だった。
ひとりが、棒を持って飛び出した。
だが、その動きは粗い。
玄之助が前に出る。
一瞬。
間合いを詰める。
棒が振り下ろされる前に、
その腕を打ち落とす。
男は、声も上げずに倒れた。
周囲が息を呑む。
次に出ようとした者が、止まる。
権太が笑う。
「まだやるか」
誰も動かない。
そのまま、道が開いた。
四人は奥へ進む。
障子の向こうに、人影があった。
三之助が言う。
「中や」
朔太郎がうなずく。
障子に手をかける。
開ける。
部屋の中に、葛山虎矩がいた。

座している。
だが、落ち着いてはいない。
目が、わずかに揺れている。
「……来たか」
低く言う。
三之助が前に出た。
虎矩の目が、細くなる。
「裏切るか」
三之助は答える。
「違う」
短く。
「見切った」
その言葉で、空気が変わった。
虎矩は立ち上がった。
「わしに刃を向けるか」
玄之助が言う。
「刃やない」
権太が続ける。
「終わりに来たんや」
朔太郎が、懐から紙を出した。
あの密書だった。
虎矩の目が、はっきりと動いた。
「それを……」
朔太郎が言う。
「全部、出とる」
外のざわめきが、ここまで届いている。
虎矩は、一歩だけ下がった。
初めての動きだった。
三之助が言う。
「もう終わりや」
沈黙。
虎矩は、しばらく何も言わなかった。
やがて、ふっと息を吐く。
「……合議か」
誰も答えない。
それが答えだった。
虎矩は、ゆっくりと座り直した。
力が抜けていく。
もう、抗う場所はない。
三之助が一歩進む。
「来てもらう」
虎矩は、抵抗しなかった。
その姿を、四人は見ていた。
外では、人の気配がさらに増えている。
夜は、静かに深まっていく。
だが、この夜で、一つの流れは終わる。

