鬼を狩る子孫 第二部・過去編 第四章 伊賀(9)

決別

木立の奥で、三之助は動かなかった。

人のざわめきは、まだ続いている。

怒りの声。
押し殺した声。
それらが混じり合い、
谷の中に重く残っていた。

朔太郎たちは、まだ前に立っている。

倒れた男をかばうように、
三人が並ぶ。

その姿を、三之助は見ていた。

(止めに入ったか)

短く思う。

無駄なことではない。

だが、簡単なことでもない。

相手は、ただのならず者ではない。

虎矩の名を背負っている。

(あの三人……)

三之助の目が、わずかに細くなる。

ためらいがない。

だが、無茶でもない。

どこで引くかを知っている動きだった。

(使い方を知っている)

力の、使い方を。

三之助は、ゆっくりと息を吐いた。

創作小説の挿絵

虎矩のもとで見てきたものが、頭に浮かぶ。

命令。

即断。

押し切る力。

確かに、速い。

確かに、強い。

だが、それは

(長くは持たぬ)

そう思った。

今日のようなことが、重なればどうなるか。

人は、従う。

だが、心では離れる。

やがて、それは形になる。

伊賀は、そういう土地だった。

(壊れる)

三之助は、はっきりとそう思った。

そのとき、虎矩の言葉がよみがえる。

「わしがまとめる」

「伊賀は、ひとつになる」

(三つに割れるな)

三之助は、静かに首を振った。

まとめるのではない。

押さえつけているだけだ。

それでは、いずれ反発が起きる。

(あの男は、見ておらぬ)

見えていないのではない。

見ようとしていない。

そこが、決定的だった。

三之助は、目を閉じた。

ほんの一瞬。

祖父の顔が浮かぶ。

名も残らず、
ただ「処分された者」として消えた男。

あのときも、同じだった。

声だけで決まり、
力で押し切られた。

そして今、同じことが繰り返されている。