鬼を狩る子孫 第十話 大山詣り(6)

伊勢原――山へ向かう町

伊勢原駅の改札を出た瞬間、
空気が少し変わったように感じた。

 鎌倉や藤沢とは違う。
どこか、
「山に入る前の町」の匂いがある。

 駅前の通りには、

大山を描いた古い案内板や、
「大山名物」と書かれた看板がいくつも並んでいた。

「ここが……伊勢原か」

 悠夜は、
思わずつぶやいた。

 嵐山が頷く。

「せや。
 江戸の昔、大山詣りは、
まずここに集まったんや」

 蓮が首をかしげる。

「でも先生、
 お伊勢参りなら伊勢神宮ですよね。
 伊勢原って……関係あるんですか?」

「あるどころやない」

 嵐山は、
駅前から延びる道の先を指した。
「伊勢原いう地名自体がな、
 伊勢講と深う関わっとる。
 天照大神を祀る信仰が、
 この辺まで広がっとった証や」

 真衣の目が輝く。

「じゃあ、大山って……
 山だけど、神社でもあるんですね」

「そういうこっちゃ」

 一行は、
駅前のバスに乗り込んだ。

 走り出すと、
街並みは少しずつ低くなり、
視界の向こうに、
山の気配が濃くなっていく。

 大山ケーブル停留所で降りると、
そこはもう、
観光地とも登山口ともつかない場所だった。

 土産物屋。
湯豆腐の看板。
そして――

「あ……」

 蓮が、
道沿いの建物に目を留めた。

創作小説の挿絵

 古い木造の宿。
軒先には、
「御師宿」と記された札。
さらにその先にも、
似たような宿がいくつか続いている。

「御師の宿や」

 嵐山が言った。

「一軒だけやない。
 麓には、
 こうしていくつも並んどった」

 現役の宿もあれば、
今は看板だけ残る建物もある。
「講中はな、
 ここで泊まって、
 明日の登拝に備えたんや」

 悠夜は、
宿の佇まいを眺めた。

 信仰のため。
 けれど同時に、
 旅と宴のため。
(……もう、
 山は始まってるんだ)

 一行は、
こま参道へ向かう道の手前で足を止めた。

 まだ階段には入らない。
だが、
確かに――
入口に立った感触だけは、
はっきりとあった。