鬼を狩る子孫 第二部・過去編 第二章 洛中の渦(4)
第4回 祇園の面
嵯峨から都へ戻る道すがら、太鼓の音が聞こえた。
低く、腹に響く音である。
洛中へ入ると、人の流れが一方向へ向いていた。四条のあたり、祇園社の方へと向かっている。
朔太郎は、その流れに身を任せた。
応仁の乱で途絶えたものは多い。
だが、祭は戻りつつあるという。
祇園の祭は、もともと疫病を鎮めるために始まったと聞く。
昔、都に疫が流行った折、神輿を立て、鉾を立て、悪しきものを祓った。
悪しきもの。
それを、鬼と呼ぶこともある。
社の境内では、若者たちが面を並べていた。
赤く塗られた顔。
角。
裂けた口。
笑っているのか、怒っているのか、分からぬ面。
「今年は出すのか」
「出す。乱のあとは縮めとったがな」
「鬼役は誰や」
笑い声が上がる。
若者の一人が面をかぶる。
途端に顔が消える。
そこにいるのは、鬼だ。
子どもが泣く。
母が笑う。

「ほれ、鬼や。退治される鬼や」
退治される。
朔太郎は、その言葉に耳を留めた。
鬼は、斬るために立つ。
悪しきものとして、役を与えられる。
鉾が立てられる。
神輿が揺れる。
鬼は追われ、祓われる。
祭は、そうして整う。
焼け跡で鬼と呼ばれた男を、朔太郎は思い出した。
あれも、退治される側だったのか。
面を外した若者が笑う。
「重いな、これ」
「被っとると暑うてかなわん」
面は、役目を終えれば外せる。
だが、名を被せられた者は、外せるのか。
境内の隅で、面が並ぶ。
被る者がいる。
被せる者がいる。
どちらが、先か。
太鼓が鳴る。
空は明るい。
祭の音は、都の傷を覆うように広がっていく。
朔太郎は、しばらく立ち尽くした。
面を被る者と、
被せられる者。
その違いを、まだ言葉にはしない。
ただ、見ている。


