鬼を狩る子孫 第十話 大山詣り(7)

こま参道――境界を越える前

御師の宿が並ぶ通りを抜けると、
道はゆるやかに上りはじめた。

 視界の先に、
石段が見える。

「こま参道やな」

 嵐山が言った。

 両脇には、
土産物屋や茶屋。


その合間に、
小さな御師の宿がまだ残っている。

創作小説の挿絵

「ここにも宿、あるんだ」

 真衣が言う。

「せや。
 参道に入ってから泊まる講もおった」

 嵐山は、
石段を見上げた。

「山に入る覚悟を、
 ここで固めたんやろな」

 石段を一段、
踏みしめる。

 二段、
三段。

 振り返ると、
麓の町が、
少しずつ遠くなる。

 悠夜は、
胸の奥が静かに締まるのを感じた。

(……戻ろうと思えば、
 まだ戻れる)

 けれど――

 階段の先には、
ケーブルカーの駅が見えている。

 現代の装置。
 だが、
 山へ入るための結界でもある。

 駅に着くと、
山の斜面に、
一直線に伸びるレールが現れた。

「昔はな、
 全部、歩きや」

 嵐山が言う。

「今は楽になった。
 けどな――
 山に入る気持ちだけは、
 昔も今も変わらへん」

 悠夜は、
鞄の中のノートを思い出していた。

 あの「SOS」と、
蛇の落書き。

(街道と山……
 やっぱり、
 どこかでつながってる)

 ケーブルカーの扉が閉まる。

 ゆっくりと動き出した瞬間、
街の音が、
すっと引いていった。

 ここから先は、
もう「日常」ではない。

 大山は、
まだ何も語らない。

 だが確かに、
境界を越えた
その感触だけは、
はっきりと残っていた。