鬼を狩る子孫 第十話 大山詣り(3)
街道の先
教室の窓から柔らかな午後の日差しがさし込み、
紙の上に淡い影をつくっていた。
悠夜はノートを開き、旧大山街道で撮った写真と、
帰宅後に調べた資料を貼りつけながらレポートを書いていた。
だが、気がつくとペンの動きが止まる。
(……あの落書き。なんで “蛇” なんだろう。)
ただのイタズラかもしれない。
けれど、あの「SOS」の文字が、妙に頭に残っていた。
隣の席で蓮がつぶやく。
「なあ悠夜、あの絵……なんか変じゃなかった?」
「変、って?」
「いや……なんかこう、“意味ありげ” っていうか……」
蓮が言葉を探していると、
前の席の真衣もそっとこちらを向いた。
「私も。誰か、本当に困ってるのかと思っちゃって……」
三人の表情には、それぞれに残るわずかな引っかかりが浮かんでいた。
そのとき——
「おーい、おまえら。」
教壇の前でプリントを束ねていた嵐山が、
ゆっくりと近づいてきた。
「大山街道のレポート、まずはええ出来や。
けどな——
“街道” だけ見て終いやと思たら、もったいないで。」

悠夜たちは、はっと顔を上げた。
嵐山は腕を組み、少しだけ得意げに言った。
「どうせなら “本物の大山” も見てみたいやつ、おるか?」
蓮が目を丸くする。
「本物……って、山のほう?」
「せや。江戸の昔、庶民の娯楽として大流行した “大山詣り” 。
今の姿と昔の姿、比べてみるのも社会科の醍醐味や。」
悠夜の胸が、急にざわついた。
(……街道と山。
つながってるのか?)
真衣も息をのむ。
「先生、本当に連れて行ってくれるんですか?」
「もちろん学校行事にはできへん。けど、希望者だけの “自主見学” ならな。
わしも久しぶりに大山の空気を吸いたなったし。」
嵐山は少し笑いを含んだ目で三人を見る。
「どうや。行ってみるか?」
悠夜は、一瞬だけ落書きの蛇を思い浮かべた。
そして、胸の奥でなにかが静かに灯るのを感じた。
「……行きたいです。」
「僕も!」
「わ、私も!」
三人の声が重なった。
嵐山は満足げに頷く。
「ほな決まりや。
大山は街道だけやあらへん。
“何が見えるか” は——皆の歩き方しだいやで。」
窓の外では雲がゆっくりと流れ、まだ見ぬ “大山” が、遠くで静かに待っているようだった。


