鬼を狩る子孫 第十話 大山詣り(2)

古道に残る気配

旧大山街道の碑を離れ、
悠夜たちは西へゆっくり歩き出した。

道はまっすぐで、車通りも多い。
かつて大山へ向かう講中たちが歩いたというこの道は、
いまでは住宅の立ち並ぶ生活道路になっていた。

だが、よく見ると両脇の住宅の合間に
大山道(おおやまみち)」と刻まれた小さな石碑が残っている。

「ここ、昔はみんなで大山に行ったんだよね?」
真衣が地図アプリを覗きながら言った。

蓮がうなずく。

「うん。江戸時代は “庶民のレジャー” って感じだったんだって。
 落語にもあるよね、えっと……」

「『大山詣り』や。」
後ろから嵐山が歩いてきて、笑いながら言葉を継いだ。

創作小説の挿絵

「伊勢参りより手軽でな、
 山ん中で酒飲んで騒いで、時には喧嘩もはじまる。
 でも帰りには大山からの御利益をありがたがる、
 そういう “信心と娯楽のミックス” やった。」

悠夜は思わず笑った。

「なんか……今の初詣より賑やかそう。」

「せやろ。大山は “雨降り山” とも言われてな。
 水の神さまやから、みんな祈りに来よった。」

歩き進むうちに、街道沿いの景色が少しずつ変わる。
新しい家の間に、昭和の商店がぽつんと残り、
さらにその奥には、古い石垣がひっそり顔を出している。

蓮がふと立ち止まった。

「……あれ、見て。」

電柱の根元。

「……増えてる。」
真衣が小さくつぶやく。

蛇の絵だけが、
同じタッチで、同じ向きで、
少し離れた別の電柱にも描かれていた。

三人は息をのむ。

「これ……誰かが続けて描いてる?」
蓮が眉を寄せる。

「遊びで描くにしては、しつこいよね……」
真衣の声がか細くなる。

悠夜は、胸の奥がざわ…と波立つのを感じた。

(どうして “蛇” なんだ?
 誰が何のために……?)

嵐山はしばらく無言で電柱を眺めていたが、
やがて静かに言った。

「……調べてみる価値は、ありそうやな。」

その言葉に、悠夜たちは顔を見合わせた。

大山街道の調査のために歩きはじめたはずが、
いつの間にか “別の道” にも踏み込んでいる気がした。

だがその道は、
どこかで大山の伝承と、
そして蛇の落書きの “意味” につながっている気がしてならなかった。

(いやな胸騒ぎ……でも、放っておけない)

悠夜は拳を軽く握り、歩き出した。

大山への道が、
ゆっくりと、しかし確実に少年たちを “事件” へと導きつつあった。