鬼を狩る子孫 第九話 鎌倉山の鬼(最終回)

それでも灯りはある

江ノ電を降りると、空はすでに群青色に沈み、
街灯が小さくゆらめき始めていた。

海風がやわらかく吹き、
遠くの波の音が、
行きと帰りで少し違って聞こえた。

「……なんか、長い一日だったね」

真衣がぽつりとつぶやく。

蓮も小さく笑った。

「鬼の話で山登って……
 帰りの電車で “心の鬼” まで出てきちゃったし。」

悠夜は、足元の影を見ながら言った。

「でも……
 なんか、わかった気がするんだ。」

ふたりが振り向く。

悠夜は少し照れながら続けた。

「歴史に出てくる鬼も、
 鎌倉山の鬼も、
 電車の中の鬼も……
 全部 “別のもの” じゃなくて、
 つながってるんじゃないかって。」

蓮が眉を上げる。

「つながってる?」

「うん。
 昔の鬼は、理不尽や暴力の象徴だったかもしれない。
 でも今の鬼は……
 人の心の中で、姿を変えて残ってるんじゃないかって。」

海の向こうを見つめていた嵐山が、
静かに口を開いた。

「せやけどな。」

声は柔らかく、
どこかあたたかかった。

「鬼がおるゆうことは、
 かならず “灯り” もあるゆうこっちゃ。」

三人はじっと耳を傾ける。

「人の心が鬼にのまれへんようにするにはな……
 だれかが、ちいさうても灯りをともしたらええ。
 今日、おまえらがしたみたいにな。」

悠夜たちは思わず目を合わせる。

席を譲った――
あれはほんの小さな行為だった。
でも、あの瞬間、自分たちの胸の奥が
すっと明るくなったのを覚えている。

嵐山はゆっくり歩き出した。

「鬼の話を調べるんは大事や。
 けどな、もっと大事んは……
 “鬼にせんでええもんを鬼にせんようにする” ことや。」

その言葉が、夕闇の空に溶けていった。

帰り道、
四人の影は街灯に照らされて長く伸びた。

しかしその影は、
あの山のときとは違っていた。

少しだけ――
前へと向かっていた。

悠夜は静かに胸の中でつぶやいた。

「鬼がどこにいるかより……
 自分がどんな灯りになれるかを考えよう。」

その小さな決意が、
彼の歩みをかすかに明るくしていた。

そして四人は、
それぞれの家へと分かれて歩いていった。

鎌倉の夜風が、
新しい物語の始まりをそっと運んでいた。

創作小説の挿絵

第九話 完