鬼を狩る子孫 第九話 鎌倉山の鬼伝説(7)
痕跡をたどる
鎌倉山の尾根道は、ゆるやかに続いていた。
住宅地の背後とは思えないほど静かで、
鳥の声が近く、木洩れ日が揺れている。
蓮が前を歩く嵐山に声をかけた。
「さっきの話……
鎌倉山の鬼って、実在したんでしょうか。」
嵐山は足を止め、指で前方を示した。
「ほれ、見てみい。」
三人は小走りでその場所に近づいた。
そこには、崩れかけた低い石垣と、
その奥にぽっかりと口を開けた浅い窪みがあった。
真衣が小声で言う。
「……洞窟? みたい。」
悠夜は周囲の地形に目をやった。
尾根道の途中なのに、そこだけが妙にえぐれている。

嵐山は言った。
「鎌倉の山ん中にはな、
“切通し(きりどおし)” や “防衛や運搬の抜け道” がようけある。
せやけどな、そこに “怨霊が潜んでた” とか
“鬼が出た” とかいう伝承が、よう一緒についてくるんや。」
蓮は興味深そうに身を乗り出した。
「じゃあ、この窪みも……?」
「昔の人が “そう見た” んや。
ほんまかウソかやなくて、
その出来事を “鬼の仕業” と感じた心が残った、ちゅうことや。」
嵐山はしゃがみ込み、石の欠片を拾った。
「たとえばやな……
夜中に獣が走りよった。
あるいは、木が倒れて道をふさいでしもた。
あるいは、誰かがこっそり隠れ住んでたんかもしれへん。」
石片を手のひらで転がしながら続ける。
「せやけど、
人は “説明できへんもん” に名前をつける生きものなんや。
それが鬼やったり、化けもんやったりする。」
悠夜はその言葉に深くうなずいた。
胸の奥に、これまで出会った “鬼” の姿が浮かんだ。
学校での不正を操った “大人の悪意” 。
都市の闇で人をおとしめる影の勢力。
人の心に巣くう、自分勝手さや弱さ。
それらは形の違う “鬼” だった。
真衣がふと振り返ると、尾根の向こうから風が吹き抜けた。
葉がざわざわと揺れ、木洩れ日がちらちらと動く。
「……じゃあ、“鎌倉山の鬼” って、
ほんとうは何なんですか?」
嵐山は立ち上がり、遠くの相模湾を見下ろした。
「せやな……
人が恐れたもの全部の “寄りあい所帯” やと思うたらええ。
自然も、戦も、人の欲も。
それらが渦巻いた時代、この山にも “鬼” が棲む言われたんや。」
悠夜の胸に、静かなざわめきが生まれた。
形を持たない鬼。
しかし、確かに存在する鬼。
見えぬ何かが、人を動かし、人を惑わせる——。
蓮が前を向き直した。
「……この先に、もっと何か残ってるかな。」
嵐山は笑みを浮かべた。
「さあなあ。
せやけど、鬼ちゅうんは “どこか” におるもんやない。
どこを歩くかより、どんな心で歩くかなんやで。」
四人は再び歩き始めた。
尾根道は、ひっそりと続いていた。


