鬼を狩る子孫 第九話 鎌倉山の鬼(6)

山影に残る “面の鬼”

鎌倉山の頂へ向かう道は、木漏れ日がまだらに落ち、
鳥の声が時折、谷のほうへ吸い込まれていく。
住宅街を抜けたあとの静けさは深く、
どこか古い神域に足を踏み入れてしまったような感覚があった。

蓮が汗をぬぐいながら言う。

「鎌倉山って……昔はどんな場所だったんだろう。」

その問いに、嵐山がふっと笑みを浮かべた。

「せやな。
 ここには “鬼” の伝承がのこっとるんや。」

三人は一斉に顔を向けた。

「鬼……?」
悠夜が聞き返す。

嵐山は歩みを緩め、山の斜面を見上げながら語りはじめた。

「鎌倉が戦で荒れはてた頃や。
 討ち死にした武将の従者や家族が逃げ込み、
 山ん中で暮らしとった一族があったんやと。」

真衣がそっと息をのむ。

「でも、それって鬼じゃなくて……」

「人や。」
嵐山は静かに頷く。

「せやけどな、
 夜な夜な “面(おもて)” をかぶって山を下り、
 食いもんを求めたり、
 時には里のもんを脅かしたりしたらしい。」

蓮が興味深そうに言う。

「だから “面の鬼” って呼ばれた……?」

「そういうこっちゃ。」


嵐山は続ける。

創作小説の挿絵

「当時の人間にしたら、
 仮面をつけた得体の知れん影は、
 それだけで鬼やったんやろな。」

風が山を渡り、木の葉がざわついた。

悠夜はその音に耳を澄ませながら、
心の中で “鬼” という言葉を反芻した。

「……鬼って、人間だったんだ。」

嵐山は微笑む。

「だれやて、追い詰められれば “鬼” になるんや。
 けど、面を外したらただの人や。
 鎌倉山の鬼は、そないな話や。」

三人はしばらく黙って歩いた。

山路の先で、木々の隙間から
かすかに海の青がのぞいた。

真衣が言った。

「でも……なんか分かる気がする。
 怖いと思ってたものが、
 本当は “誰かの事情” だったりするって。」

「せや。
 鬼伝説いうのはな、
 人の影を映す鏡みたいなもんなんや。」

その言葉に、悠夜は胸の奥がふっと軽くなるのを感じた。

鎌倉山の静けさの中、
“鬼=誰かの影” という考えが
ゆっくりと自分の中に落ちていく。

四人は再び歩きはじめた。

その先に、
まだ聞いたことのない “鎌倉山の鬼” の姿が
ひそやかに待っているように思えた。