鬼を狩る子孫 第九話 鎌倉山の鬼伝説(5)
鎌倉山に棲む影
鎌倉山の坂道を登ると、木々の影が濃くなり、
鳥の声と土の匂いがゆっくりと四人を包み込んだ。
蓮が、斜面に残る古い石段の名残りを眺めながら言う。
「鎌倉山って……鬼がいたって本当に言われてるの?」
嵐山は歩みを緩め、微笑を浮かべた。
「せやなあ。
正式な史書には出てこんけど、
土地の者がよう語る “影の話” っちゅうのはあるんや。」
真衣が興味深そうに顔を上げる。
「影の話……?」
嵐山は、山の中腹に広がる谷間を指さした。

「この辺りにはな、昔 “影落としの鬼” がおった、
いう伝承があるんや。」
悠夜が息をのむ。
「影落とし……?」
嵐山は静かに続けた。
「昔、この山の峠を越える道は “影道” と呼ばれとった。
夕方になると、道の片側が真っ黒に沈んでな、
そこを通る旅人がぽつぽつ姿を消す時期があったらしい。」
蓮の足が止まる。
「姿を……消す?」
嵐山うなずく。
「ほんまに消えたんやなくてな。
山の斜面に “影だけが残る” っちゅう噂が立ったんや。
それを “影落としの鬼” の仕業やと怖れられた。」
真衣はごくりと喉を鳴らす。
「どうして影だけ……?」
「人はな、
自分が疲れたり、弱ったり、心が乱れたりすると……
影の方が先に “歪む” ことがある、いう考えがあったんや。」
悠夜ははっとした。
「心の乱れが……影に現れる?」
嵐山は静かに頷いた。
「せや。
この “影の鬼” は、
人の乱れた心に寄り添うように現れて、
そいつの影を重たく落とす――
つまり “自分を見失わせる鬼” やった、と伝えられとる。」
蓮は呟いた。
「……なんか、今の世でもありそうだ。」
嵐山はにっこり笑った。
「せやろ?」
「鎌倉山の鬼はな、
斧を振り回すような物騒な奴ではのうて、
“人の心が弱った時に寄ってくる影” やいう話や。」
悠夜は思わず胸に手をあてる。
(……自分にも、そんな影があるのだろうか。)
真衣が谷を見下ろしながら言う。
「姿は見えないけど……
本当にいそうな気がするね。」
嵐山は小さく頷き、
落ち葉を踏みながら歩き出した。
「せや。だからこそ――
こういう場所で昔話を聞くときは、
“鬼の正体はなんやろか” と、
自分に問いかけてみるのがええ。」
風が木々を揺らし、
影が地面に揺れ広がった。
四人はその揺らぎの中を通り抜けながら、
それぞれの “影” の気配を心に刻んでいった。


