鬼を狩る子孫 第九話 鎌倉山の鬼伝説(2)

山に残る影

鎌倉山の坂道を登るにつれ、
潮の匂いは薄れ、かわりに土と緑の香りが濃くなっていった。

舗装された住宅街を抜けると、
古い石垣の連なりが現れ、
その向こうには、かつての切通しを思わせる狭い道が続いていた。

創作小説の挿絵

蓮が足を止めた。

「こんな場所、鎌倉に残ってたんだ……」

真衣も振り返りながら言う。

「なんか、時代が戻ったみたい。」

木々は高く、
頭上では小鳥が短い声で鳴き交わす。
風が吹くたび、木漏れ日がゆらりと揺れた。

その景色を見ながら悠夜はふと、
さっきの電車内の光景を思い出していた。

人の心の鬼——。
では、この山に伝わる鬼とは何だったのか。

考え込む悠夜の横で、
嵐山が歩を緩めながら言った。

「このあたりの山ん中にはな、
 えらい昔から “鬼” が出る、いう話が残ってるんや。」

三人が同時に振り向いた。

「鬼……?」

「わしな、京都でもよう聞くけど、
 こういう “古都” いう場所は、
 人の営みが長いぶん、影も深なりやすいんやて。」

蓮が眉を上げる。

「鎌倉山の鬼って、どんなのなんです?」

嵐山は少し笑い、
言葉を選ぶようにゆっくり続けた。

「姿かたちの話やあらへん。
 ここいらでは “闇ン中で人の弱さを食う鬼” がおる、
 ちゅう言い伝えがあるんや。」

真衣が息を呑む。

「弱さを……食べる?」

「せや。
 怒りや、嫉妬や、欲深さ……
 そういう陰ったもんが溜まると、
 その人の影に “鬼の気” が宿る、いうてな。」

悠夜の心臓がふと大きく跳ねた。

(心の中の鬼……
 嵐山先生がさっき言ってたのと、同じ……?)

嵐山はゆっくり坂の先を指さした。

「鎌倉山にはな、昔ここで暮らしとった人らが
  “鬼の通り道” ちゅうて怖れとった場所がある。
 まずは、そこを見に行こか。」

蓮と真衣は目を丸くし、
悠夜は胸の奥にひそかな緊張を感じた。

鳥の声が一瞬止まり、
山風だけが静かに草を揺らした。

四人は足をそろえ、
古い山道の奥へと歩みを進めた。

まるで、
この山に残る “影” の正体を確かめるために。