鬼を狩る子孫 第八話 代議士への道(10)

見えてきた輪郭

蓮が見つけた式典写真を前に、
三人はしばらく動けなかった。

議員と副理事長が、
同じ大学、同じアメフト部に所属していたという事実。
たったそれだけのことなのに、
ここ数日の出来事が、
急に “ひとつの線” で結ばれたように感じられた。

夕方の図書室に、蓮の小さな声が落ちる。

「……これって、何を意味してるんだろう。」

悠夜は腕を組んで考え込んだ。

「議員さんが後継者を探してるって記事があって……
 副理事長先生が体育部顧問に “親切” をして……
 業者は後援会に寄付してて……」

真衣が言葉を継ぐ。

「議員秘書の人も学校に来てるし……
 全部が、じわじわ学校のまわりに集まってる感じがする。」

三人の声のトーンは小さい。
まだ “事件” と呼べるほどのものではない。
ただ、つながりが輪郭を持ち始めただけだ。

蓮は写真を机に置きながら言った。

「副理事長先生……
 もしかして、何か “大きなこと” をしようとしてる?」

創作小説の挿絵

悠夜はすぐには答えられなかった。
しかし、頭のどこかで
“代議士への道” という言葉が浮かぶ。

もちろん、証拠はひとつもない。
ただの推測だ。

だが三人は感じていた。

副理事長の“親切”は、
単に顧問の家庭事情を思いやったものではない。
業者の寄付は、
偶然の一致とは言い難い。
議員秘書の来校も、
ただの雑談にしては回数が多い。

そして、
アメフト部式典で並んでいた二人の姿。

三人の胸の奥に、
ゆっくりと重たい像が形を成し始めた。

「……もし、副理事長先生がその議員さんの……
 後継を狙ってるとしたら?」
真衣がつぶやいた。

蓮と悠夜が顔を上げる。

真衣は慌てて言い添えた。
「いや、分かんないけど!
 そんな気もするってだけで……」

けれど、その仮説は
三人の中に妙にしっくり収まってしまった。

蓮が言う。

「でも、それって……
 “誰も悪いことしてない” んだよね。
 いまのところは。」

悠夜はゆっくりうなずいた。

「うん。
 みんな、自分の立場で “いいこと” をしてるだけなんだ。
 だけど、それが全部つながると……」

三人は同時に黙り込んだ。

窓の外で風が木々を揺らし、
柔らかな音が図書室に届いた。

真衣が最後に、小さく言った。

「……怖いのは、誰も命令してないってことかも。」

蓮と悠夜は、
その言葉の意味をかみしめるようにうなずいた。

副理事長の “意図” は姿を見せてはいない。
だが、見えない手が
ゆっくりと線を引き始めているような気がした。

その線は、
どこへ向かい、何を生むのか。

三人にはまだわからない。
ただ、
“輪郭だけが見え始めた” という事実だけが残った。