鬼を狩る子孫 第八話 代議士への道(3)

体育部顧問の不自然な動き

翌日の放課後、真衣は生徒会の掲示物を貼り替えるため、
体育館へ向かっていた。
夕方の風が吹き抜け、体育館の壁が白く光っている。

掲示板の前に近づいたとき、
横手の通用口のあたりから、
低い声がふたつ、重なるように聞こえた。

真衣は思わず足を止めた。

見ると、体育部顧問が業者らしき男性と向かい合っていた。
昨日見かけたのと同じ会社のジャンパーを着ている。

顧問は落ち着かない様子で、
あたりを何度も気にしている。
いつもの柔らかい雰囲気とは少し違った。

「……ですから、その話は……ええ、はい……」
言葉の端々だけ聞こえる。
業者のほうは、何か書類のようなものを手渡しているようだった。

創作小説の挿絵

真衣は壁に掲示物を持ったまま立ち尽くした。
別に盗み聞きをするつもりはない。
ただ、顧問の “らしくない” 動きが、妙に目についた。

顧問は受け取った紙束を胸元に押し当て、
「急ぎますので……またご連絡します」
と頭を下げて立ち去った。

業者は短く会釈をし、
体育館の裏手の方へと消えていった。

真衣は動けずにいた。
体育館の静けさが、さっきまでの会話を
吸い込んでしまったように感じられた。

「……どうしたんだろ、先生。」

顧問は普段、誰にでも気さくに声をかけるタイプだ。
今日のように、落ち着かず何度も周囲を確かめる姿は珍しい。

真衣は掲示物を貼り終えると、
そっとその場を離れた。

追いかけることもしなかったし、
誰かにすぐ話すわけでもなかった。
ただ、胸の奥に小さなひっかかりが残った。

昨日の封筒。
後援会申込書。
不正入試の資料と同じ業者名。
そして今日の、落ち着かない体育部顧問。

どれも単独では意味を持たない。
けれど、“気になること” が少しずつ増えていく――
そんな感覚だった。

真衣は校庭に出て深呼吸をした。
夕陽が伸ばす自分の影が、
体育館へ向かって細長く伸びていた。