鬼を狩る子孫 第七話 北条氏の策謀(10)
食い違う証言
校舎の午後は、いつもより騒がしかった。
臨時理事会が始まるからだ。
悠夜と蓮は、三階の渡り廊下から
理事会室前に集まる大人たちを見下ろしていた。
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「……あれ、副理事長だ。」
蓮が小さく呟く。
黒いスーツの副理事長は、
書類の入ったファイルを胸に抱え、
完璧な笑みを浮かべていた。
一方、教頭は落ち着かない様子で
資料を何度も見直している。
司書は姿勢を縮め、申し訳なさそうに書類を抱えていた。
(はじまる……
顧問の先生が、追い詰められる……)
蓮の肩に、悠夜がそっと手を置いた。
「蓮。
僕たちには “手札” がある。」
蓮はうなずく。
「創設期の棚の運用方針……
あれが本物なら、副理事長の言い分は崩れる。」
「崩すだけじゃない。
“ねつ造の経路” を示せれば、勝てる。」
悠夜は静かに言った。
*
理事会室の扉は閉ざされ、
中の議論は聞こえない。
だが、廊下で待機していた教頭が
ふいに扉を出てきた。
その顔は蒼白だった。
蓮は思わず声をかけた。
「教頭先生……!」
教頭は驚き、資料を胸に押し当てるように抱えた。
「……蓮くん……悠夜くんも……
どうしてここに……」
悠夜は一歩踏み出した。
「先生。
“棚の事故” の記録……
本当の原本を見つけました。」
教頭の肩が大きく震えた。
「き……君たち……
そんなものを……どこで……?」
「資料室です。
でも、あれは “創設期の運用方針” なんです。
顧問の先生が安全第一に作った……
今の議論とは違う、本物の文書です。」
教頭の目に、苦悩が走る。
「違う……違うんだ……
私は……私は副理事長に……
“学校のためだから” と言われて……
だが……こんなつもりでは……」
司書が廊下の陰から現れた。
「教頭先生……
私も……
私も、あの書類が正しいのかどうか、
ずっと心配で……」
教頭は司書を見つめた。
(……この人も被害者なんだ……)
蓮は胸が痛んだ。
悠夜は静かに言った。
「教頭先生、お願いします。
理事会で……真実を話してください。
“学校のため” を間違えないで。」
教頭はしばらく唇を噛みしめ、
ついに小さくうなずいた。
「……わかった。
私が……全て話す。」
司書が小声で「ありがとうございます」と言った。
その時だった。
廊下の向こうから、
ゆったりとした足取りで近づいてくる人物がいた。
嵐山だった。
白いシャツに紺のジャケットを羽織り、
いつもの柔らかな笑みを浮かべている。
だが、その目は鋭かった。
「君たち……少し話を聞かせてもらったよ。」
蓮は驚く。
「嵐山先生……!」
嵐山は理事会室の扉の方を見た。
「副理事長は、創設期の事故と棚の運用方針を結びつけて
顧問に責任を押し付けようとしているようだね。」
悠夜は息を呑んだ。
「先生、どうして……」
嵐山は微笑んだ。
「君たちが “歴史” を調べているのは知っていたよ。
実は、僕も理事から
古い記録の “歴史的整合性” を確認してくれ、と頼まれてね。」
蓮は目を丸くした。
「歴史的……整合性……?」
嵐山は静かに言った。
「創設期の棚運用方針書には、
当時の設備担当者の署名があるはずだ。
しかし、副理事長が提出した
“創設期の安全管理記録” には……
その人物が記されていない。」
悠夜ははっとした。
「……つまり……
“コピーじゃない” ということですか?」
「違う。」
嵐山は首を振った。
「改竄の途中で “意図的に省かれた” 痕跡があると言える。」
蓮が息を呑む。
「じゃあ……副理事長は……!」
嵐山は頷いた。
「うん。
顧問に不利な証拠を作ろうとして、
“歴史の筋道” を無視したんだ。」
悠夜の胸が熱くなった。
(……この人は……
僕たちの味方だ。)
教頭が震える声で言った。
「嵐山先生……
どうか……理事会で……
“整合しない” と伝えてください……
私も証言します……!」
嵐山は穏やかに微笑んだ。
「もちろん。
歴史を曲げようとする行為は、
僕の専門では “暴君の証” というんだよ。」
悠夜と蓮は同時に息を呑んだ。
嵐山は二人を見て、静かに言った。
「君たちは、よくここまで来たね。
あとは──
歴史が “繰り返されない” ように、
僕たち全員で止めるだけだ。」
理事会室の扉の向こうでは、
副理事長の柔らかく冷たい声が響き続けていた。
戦いは、
いよいよ本番を迎えつつあった。

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