鬼を狩る子孫 第七話 北条氏の策謀(7)
功労者を封じる影
翌週の午後。
校舎は定期試験前の静けさに包まれ、
生徒たちの声はどこか控えめだった。
だがその裏で、
もう一つの静かな動きが始まっていた。
*
昼休み。
悠夜と蓮は職員棟へ向かう細い廊下にいた。
司書が「古い書類の整理を頼まれた」と口にしたことが
どうしても気になったからだ。
事務室のドアがわずかに開き、
中の声が漏れていた。
「──この “創設顧問に関する報告” ですが、
ここの部分、もう少し整理しておきましょう。」
副理事長の落ち着いた声だった。
司書のやわらかな声が続く。
「ですが……ここには顧問の先生が
学園の安全管理に細かく関わっておられた記録が……
この棚も、もともとは──」
「ああ、大丈夫です。」
副理事長の声はやわらかい。
だが、それは議論を終わらせるための柔らかさだった。
「古い細部は、今の体制には不要なのですよ。
“混乱を避けるため” にも、
創設期の影響力は控えめにしておくべきです。」
蓮は息を止めた。
(影響力を……控えめに?
顧問の先生の功績を……小さくするつもり……?)
司書がためらった声を出した。
「……顧問の先生は、学園の理念をつくられた方で……
生徒のことを一番に考えて……」
「もちろん尊敬しています。」
副理事長はやわらかく遮る。
「ですがね、司書さん。
理事会は今、“新しい方針” で動いています。
古い価値観が強すぎると、かえって組織が揺らぎます。」
悠夜が蓮の腕を軽く引き、ドアから離れた。
(……まるで、義時だ。)
幕府創設の大功労者でありながら、
義時にとっては “影響力が強すぎる” 存在だった和田義盛。
その忠義も武功も、
体制の安定には重すぎる。
だから排除工作が始まった。
悠夜は、胸の奥がひやりとした。
(創設顧問の先生も……同じ扱いを受けている。)
今も顧問として学園の理念を守り続ける人物。
派閥にも興味がなく、生徒だけを見てきた誠実な大人。
理事会の中でも広い信頼を持ち、
副理事長の意向に異を唱えることもある。
だからこそ、
副理事長にとっては “扱いにくい人物” だった。
蓮が小さく呟く。
「悠夜……副理事長、
顧問の先生を……追い落とすつもりなのかな。」
悠夜は目を伏せた。
「たぶんね。
棚の事故の記録を消したのは……
本当に “事故を隠すため” じゃなかったんだ。」
蓮が目を見開く。
「じゃあ……?」
「 “顧問の過失に見せかけるため” だよ。
創設者の責任のように仕立てれば、
影響力を弱められる。」
蓮は言葉を失った。
「和田義盛と……同じだ。
功労者は、時に一番重い存在になる。」
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職員室の奥から、
副理事長の柔らかな声が再び聞こえた。
「理事会の安定のためにも、
創設期の人物の “色” は薄めておかねばなりません。
そのほうが学園は落ち着きます。」
悠夜は思わず天井を見上げた。
( “安定” ……義時もその言葉を使った。
でも本当は、
自分の権力が揺らぐのが怖かっただけだ。)
蓮は拳を握りしめた。
「……顧問の先生を守らなきゃ。
今度は、和田のときみたいにはさせない。」
悠夜は静かに頷いた。
二人の胸に、
“未来のために歴史を止める”
そんな新しい使命感が灯っていた。


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