鬼を狩る子孫 第六話 不正入試(5)
消された記録
放課後の廊下は、夕陽に染まっていた。
窓ガラスが金色に光り、靴音が細く響く。
真衣がふと立ち止まった。
「……印刷室、開いてる」
普段なら鍵のかかっているはずのドアが、少しだけ開いていた。
中から、プリンターの温い匂いが漂ってくる。
「誰か忘れ物したのかな」
蓮が首をかしげる。
三人はそっと中を覗いた。
中は無人だった。
ただ、コピー機の横に、出力されたままの紙束が残っている。
その一枚目の上にはこう印字されていた。
《理事会提出用 入試成績整合性確認資料》
悠夜の胸が高鳴った。
「……入試、って……」
蓮が小声で言う。
「まさか、俊哉くんの?」
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真衣は紙の端を見つめた。
そこにあった一行が、目に刺さる。
《特別推薦扱い・学外提携校経由》
「……こんな枠、聞いたことない」真衣が呟く。
彼女の声はかすかに震えていた。
悠夜は息をのんだ。
「これが、“追い風”の正体……?」
そのとき、背後から声がした。
「何を見つけたんや?」
三人が振り向くと、嵐山が立っていた。
いつもの白シャツに、皺だらけのスーツ。
寝ぐせの残る髪が逆光にきらめく。
「せ、先生……!」
蓮があわてて紙束を抱えようとする。
嵐山はそれを制した。
「触らんでええ。風が通るまでは、紙はそのままにしとき。」
悠夜が息をのんだ。
「先生……これ、不正の証拠なんですか?」
嵐山は少し考えてから言った。
「証拠かどうかは、読む人が決めるもんや。
けどな、“誰かのための追い風”は、
同時に“誰かの向かい風”にもなるんや。」
真衣は拳を握った。
「でも、これを理事会が出してるってことは……
学校ぐるみ、ってことですか?」
嵐山は笑みを消した。
「かもしれんな。
けど、ここで声を荒げたら、
その風は嵐になって、全部吹き飛ばしてまう。」
蓮が顔を上げた。
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
嵐山はゆっくりとコピー機の電源を切った。
「まずは、風の“音”を聴くんや。
誰が息を潜めとるか、どこが静かすぎるか。
沈黙してる場所こそ、鬼の棲み処や。」
三人は黙って頷いた。
窓の外では、雨上がりの空に風が吹いていた。
カーテンが揺れ、机の上の紙が一枚、ひらりとめくれた。
その裏には、手書きの走り書きが残っていた。
《俊哉・得点再調整済 確認印:K.S.》
真衣が息を呑む。
「……K.S.って、もしかして……教頭先生?」
嵐山は静かに窓を閉めた。
「風が通ったな。
あとは、誰がその風を“止めよう”とするかや。」

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