鬼を狩る子孫 第六話 不正入試(3)

理事会の影

 翌週の午後、真衣は保健室に薬をもらいに行った帰り、
 職員室の前で足を止めた。
 扉の向こうから、聞き慣れた名前が聞こえたのだ。

創作小説の挿絵

 「……今井俊哉くんの件ですが、理事会から “特別考慮” の要請がありまして」
 「試験の得点、整合性はとれたのか?」
 「はい、形式上は問題ありません。予備校との記録も合わせました。」
 「よし、では来週の会議までにまとめておけ。」

低い声が交わされる。それがどの先生のものなのか、真衣には分からなかった。ただ、**“予備校”と“理事会”**という言葉がまるで二本の糸のように絡み合って聞こえた。

(……やっぱり、何かある)

足音を忍ばせて廊下の角を曲がると、そこにちょうど悠夜と蓮が来た。

「どうしたの? 顔、真っ青だよ」
「いま、職員室で……俊哉くんの名前を聞いたの。“特別考慮” って……何だと思う?」

悠夜は目を細めた。

「点数の “整合性” をとるって話、前にも出てたな」

蓮が唇をかんだ。

「それ、やっぱり――」
「確証はまだない。でも、線はつながってる」

三人は人気のない階段に腰を下ろした。真衣の手がかすかに震えている。

「……私、聞いてしまったんだ。でも、どうすればいいか分からない」

悠夜は静かに言った。

「嵐山先生に話すべきかもしれない。でも、タイミングを間違えると、握りつぶされる」
「握りつぶすって、誰が?」

蓮が問う。

「 “理事会” って言葉が出た。たぶん、教頭より上の層だ。」

沈黙が落ちた。風が階段を通り抜け、三人の髪を揺らす。

「……怖いね」

真衣がつぶやいた。

「大人って、正しいことを知ってても、黙ってることがあるんだね」

悠夜がうつむいた。

「黙るってことは、風を止めることだ。風が止まれば、空気がよどむ。――鬼は、そういう空気が好きなんだ」

蓮が顔を上げた。

「じゃあ、また風を吹かせるには?」

悠夜は少し考えてから、

「誰かが窓を開けることだ」

と答えた。その言葉を聞いて、真衣の胸の奥に小さな決意が灯った。

(私が、開ける。誰かがやらなきゃ――)

校庭では光を受けた窓ガラスが、まるで閉ざされた目のように光り、真衣はその奥に、見えない何かの影を感じた。