鬼を狩る子孫 第六話 不正入試(1)
不自然な順位
春の光がやわらかく廊下を満たしていた。
掲示板の前では、新入生のリストをのぞき込む上級生たちのざわめきが続いている。
今年も中学部に新しい顔ぶれが加わるのだ。
真衣はその名簿を見つめながら、ふと立ち止まった。
小さく印字された文字の中に、見覚えのある名前があった。
――今井俊哉。
その瞬間、胸の奥がざらりとした。
(まさか、あの子が……?)
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俊哉は、真衣がかつて通っていた予備校で、一学年下のクラスにいた。休み時間によく廊下ですれ違い、答案を見せ合ったこともある。明るい子だったが、テストの成績はいつも下位で、講師に叱られてばかりだった。「この学校を受ける」と笑っていたけれど、正直なところ、合格は難しいと思っていた。
「どうしたの、真衣?」
後ろから声をかけたのは悠夜と蓮だった。真衣はためらいながら名簿を指さした。
「この子ね、前に通ってた予備校で、ひとつ下のクラスにいたの」
「へえ、下の子か」
蓮がのぞきこむ。
「頭良かったの?」
「ううん。勉強は苦手な方だったと思う。……でも、ここに受かったみたい」
悠夜が眉を寄せた。
「この学校って、外部から入る場合は試験だけだよな。推薦とかはない」
「うん。だから、ちょっと不思議で」
真衣の声が小さくなった。
そのとき、職員室の方から男の声が漏れ聞こえた。
「――例の件、点数の整合性をとっておきました」
「そうか、助かる。理事会の顔を立てねばならんからな」
真衣の背筋に冷たいものが走った。
(点数……?)
予備校で耳にした噂がよみがえる。
―― “ある筋” を通せば、試験の点は少し丸くなる。長く通っている子や、特別な家の子には、不思議と風が追い風になる。それで合格率を保っているのだと、誰かが囁いていた。
放課後、昇降口で三人は立ち止まった。校庭を渡る風が制服の裾を揺らす。
「悠夜、もし “整合性” ってのが、点数の書き換えだったら?」
悠夜は短く息を吐いた。
「だったら、それはもう “風” を止めてる誰かがいるってことだ。そして、その影には――きっと鬼がいる。」
蓮が首をかしげた。
「また鬼?」
悠夜はうなずいた。
「見えないところで、人を笑ってる奴さ。」
桜の花びらが散り、掲示板の紙がふるえた。その一枚一枚が、まるで数字という仮面のように光っていた。

