鬼を狩る子孫 保護者会の罠(3)
青シャツの企み
午後の陽が斜めに差し込む校長室。
青い背広の上着をきっちり着こなした校長は、机の上の書類をゆっくりと整えた。その指の動きまでが、まるで計算されているようだった。壁には賞状と、教育長との記念写真。だがそれらの額縁の光沢はどこか安っぽく、「虚飾」という言葉がふと頭をよぎる。
ブラインドの隙間から見える校庭には、生徒たちが走り回っている。
校長はその光景を見下ろしながら、独り言のように口を開いた。
「地域の信頼を得れば……市会議員への道も、そう遠くはないな」
その声に、横で控えていた教頭が、すぐさま頭を下げる。
「さすがでございます、校長先生。教育と政治は切っても切れません。先生のようなご経歴なら、当選は確実でございます」
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校長は口の端をゆるめ、満足げに頷いた。
「はは…… “正義” や “理想” を口にする者ほど、裏では計算しているものだよ。結局のところ、どの世界でも人は立場で動く。清廉な顔をしていても、同じことだ。」
「まことに。仰る通りでございます。」
教頭の声にはへつらいと警戒が混じっていた。その笑みは、まるで油を引いた狐のようで、校長室の空気はじっとりと湿った。
校長は椅子にもたれかかり、ゆっくりと手を組んだ。
「学校というのは、票の源泉だ。親は “教育” に弱い。教師は “評価” に弱い。そして子どもたちは、“夢” という言葉に弱い。……導き方さえ間違えなければ、すべては思うままだ」
教頭は感嘆の息を漏らした。
「お言葉の通りでございます。地域振興会の件も、先生の構想通りに進めば、議員の方々との橋渡しにもなりましょう。」
「うむ。上手くいけば “教育立市” の旗印も掲げられる。人は、理想の言葉には容易く酔うものだ。……実に便利なことだな。」
校長は冷ややかに笑い、机の端に置かれた校章入りのペンを指で転がした。
「さて……この春は、勝負の年になりそうだ。」
「ええ、ええ、まことに!」
教頭はお辞儀をしながら、掌にじっとりと汗を感じた。
目の前の青シャツの男──その野望の光は、春の陽射しよりも眩しかった。

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