鬼を狩る子孫 保護者会の罠(2)

保護者会の噂

昼休みの職員室。

弁当のフタが開く音とカップ麺の湯気のあいだで、女性教師の明るい笑い声がぽつりと弾けた。

「聞きました? またPTA代表さんが差し入れを持ってきたそうですよ」
「え? また持ってきたんですか?」
「ええ。今度は紅茶とクッキーの詰め合わせ。“校長先生、お疲れでしょうから” って」
「まあ、気が利くというか……ずいぶんマメな方ですね」

 別の教師が肩をすくめる。

「でも、あの方この間の会議でも、校長先生の話にずっと相づち打ってましたよ。“さすがですわ” って」
「へぇ〜、“地域と連携した運営” って、ああいう意味やったんですね」

どっと笑いが起きる。

その空気を背中で感じながら、嵐山はコーヒーをすすり、ふっと笑った。

「ははぁ……。なるほどな。差し入れ言うても、“お中(なか)よう作戦” やな」

創作小説の挿絵

 若手の男性教師が、プリントを束ねながら首をかしげた。

「 “お中よう作戦” ですか?」

「そや。“お中よう” なって、校長の懐(ふところ)に入り込もうっちゅう腹や。
 けどな、甘いもんで気ぃ引こう思うてる時点で、もう砂糖漬けやで」

笑いが起きた。

別の女性教師がツッコむ。

「嵐山先生、そういうの上手いですね。関西のテレビ出られますよ」
「出てもええけど、ギャラがクッキーやったら断るわ」

また笑いが広がる。

だが嵐山は、その笑いの底に小さな苦味を感じていた。

「まあ、もらうだけやったらええけどな……
 “ありがとう” が “よろしく” に化ける瞬間が、いちばん怖いんや」

静まり返った職員室に、桜の花びらが風に乗って差し込んだ。

その光を見つめながら、嵐山は小さくつぶやく。

「春風は穏やかでも、人の風はよう吹き荒れるわ……」