鬼を狩る子孫 第四話 保護者会の罠(1)

春の職員室

窓の外では、桜の花びらがまだ名残をとどめていた。
新学期を迎えた職員室は、朝からざわめきに包まれている。新しいクラス名簿、時間割、配布プリントの山。誰もが忙しく動き回り、電話の呼び出し音とコピー機の音が交錯していた。

そんな喧噪の中で、嵐山は書類の束を抱えたまま、ふと耳をとめた。
校長と教頭の声が、仕切りの向こうから聞こえてくる。

「今年は、“地域と連携した学校運営” をさらに強化したいんだ」

校長の声は柔らかく、しかしどこか芝居がかった抑揚を帯びていた。

「ええ、それは素晴らしいお考えですな。PTAの意見を積極的に取り入れれば、地域の評判も上がりましょう」

教頭の声はひどく調子がよく、語尾に媚びを含んでいる。

「うむ。教育は信頼が第一だ。だが信頼は実績からしか生まれない。そのためにも “見える改革” が必要なんだよ」
「なるほど、わかりますとも。新聞に載るような成果を一つ……ですね」
「ははは、君は話が早い」

笑い声が、低く、ねっとりと混ざり合った。

春の光が差し込む職員室なのに、その一角だけ、妙に空気が冷たい。

嵐山は眉をひそめ、書類を机に置いた。“地域との連携” という言葉の裏で、何か別の意図が動いている気がしてならない。

(また始まったか……。教育よりも、自分の評判を優先する連中が)

創作小説の挿絵

隣の席で若手教師が小さくつぶやいた。

「校長先生、今年は市の表彰を狙ってるらしいですよ」
「表彰?」

嵐山が聞き返すと、若手は肩をすくめた。

「 “地域貢献教育賞” とかいうやつです。去年、隣の学校が受賞して、市長が直接訪問したんだとか」

嵐山は鼻で笑った。

「なるほどな。子どもたちの未来より、市長とのツーショット写真ってわけか」

若手教師は苦笑して言葉を濁した。

春風が窓のカーテンを揺らし、職員室の掲示板に貼られたスローガンがちらりと目に入る。
 『信頼と協働の学校へ』

その文字が、光に照らされながらも、どこか薄暗く見えた。

——春の始まりにして、もうすでに小さな影が、校舎の片隅で息づき始めていた。