鬼を狩る子孫 第三話 新任校長の履歴書(21)

旧坑道の対決

夜の鎌倉は、しんと静まり返っていた。
街灯の届かぬ道を抜け、悠夜たちは嵐山先生とともに山裾へと向かう。
旧校舎の奥に口を開ける坑道は、昼間に見たとき以上に不気味で、まるで巨大な獣の喉のように暗黒を湛えていた。

「……ここや」

嵐山が低くつぶやく。蓮が思わず袖を掴んだ。

「ほんまに入るんですか、先生……」
「怖いんはええことや。怖さを知っとる者ほど、足を踏み外さん」

嵐山はそう言って、子どもらを背にかばうように坑道へ足を踏み入れた。

ひんやりとした空気が肌を刺す。
石壁には黒い染みが広がり、どこからともなくざわめく声が響いた。

「……戻れ……戻れ……」

少年たちの背筋に冷たいものが走る。

突如、坑道の奥から影がうねり出た。
それは人の形をとりながら、幾筋もの黒煙が絡まり合った異形の姿──校長の鬼気そのものだった。

「お前たち……逆らうか」

声は校長のものに似ていたが、響きは深く、異様に歪んでいた。

悠夜が勾玉を握りしめる。
その石からかすかな光が漏れ、仲間の手を照らす。

「負けない……僕たちは、もう逃げない!」

影が襲いかかる。
嵐山が一歩前に出て、巨体を盾のように広げた。

「おいでなさいや! わしがおる限り、子どもらには指一本触れさせへん!」

その声は坑道に轟き、影が一瞬たじろぐ。
悠夜と大地は思わず目を見張った。
力士が土俵で相手を押し返すように、嵐山の大きな体は闇に立ちはだかっていたのだ。

創作小説の挿絵

「……嵐丸だ」

蓮が小さくつぶやいた。

「え?」

悠夜が振り向く。

「先生や、嵐山先生は……嵐丸や!」

嵐山は振り返らず、ただ牙をむく闇に向かって踏み込んだ。
その背中は巨大な山のようで、少年たちの胸に熱いものをこみ上げさせた。

悠夜、蓮、大地が勾玉に手を重ねると、光は一層強くなり、闇を押し返した。

「心を離すな!」

嵐山──いや、嵐丸の叫びとともに、坑道全体が揺れる。
光と影がせめぎ合い、熱風のような圧力が三人の体を包んだ。

──勝負の時が来た。