鬼を狩る子孫 第三話 新任校長の履歴書(17)

兆し

昼下がりの職員会議。窓の外は晴れているのに、会議室の空気は妙に張り詰めていた。
校長は演台に立ち、資料を片手に教師たちへ語りかけていた。

「諸君──この学校は、まだまだ伸びしろがある。
私が世界に学んだことを、ここで実現してみせる」

言葉自体は堂々としていた。だが、その声には妙な力がこもり、ひとつひとつが胸に突き刺さるようだった。教師たちが思わず背筋を伸ばす。

「……しかし、校長。最近、生徒たちが落ち着かないように思えます」

若い教師が恐る恐る口を開いた。

「影がどうのとか、妙な噂も広がっていて──」
「噂だと?」

校長の声が急に鋭くなった。眼鏡の奥の瞳がぎらりと光り、室内が一瞬ひやりとした。

「子どもが根拠のないことを口にするのは未熟ゆえだ。教師がそれに振り回されるとは、嘆かわしい!」

机の上に置いた手が、音を立てて震えた。その力に、分厚い資料がぱらぱらと勝手にめくれ上がる。

風は吹いていない。だが紙は何かに押し上げられるように動き、会議室の空気が一層ざわめいた。

創作小説の挿絵

「……校長、落ち着いてください」

教頭が慌てて口を挟む。だがその細い目は、むしろ嬉しげに光っていた。

「校長の正しさを、生徒にも必ず伝えましょう」

教師たちは互いに顔を見合わせ、息をひそめた。
校長の背後に立つ影が、いつの間にか濃く、長く伸びていたからだ。
それは夕陽の角度とも合わず、まるで意思を持つように揺らめいていた。

校長自身は気づかぬまま、演台を強く叩きつけた。

「規律を乱す者は、断じて許さない!」

声が会議室に響き渡った瞬間、数人の教師が思わず肩をすくめた。
その中には、後方で様子を見守っていた悠夜たちの姿もあった。

「……あれ、絶対に普通じゃない」

蓮が震える声で囁いた。
悠夜は黙って拳を握りしめ、大地は険しい目で校長の影を見つめていた。

──何かが、校長の内に入り込んでいる。

そう確信せずにはいられなかった。