鬼を狩る子孫 第三話 新任校長の履歴書(15)

教師たちの違和感

放課後の校舎には、まだ部活動の声が響いていた。
美術室の窓からは斜めに陽が差し込み、絵の具のにおいがかすかに漂っている。

「ふむ……これは、瀬戸内の風景かな」

かんぴょう先生は、生徒のキャンバスを覗き込み、細長い指で顎をさすった。

「水平線の光の表現がいいね。まるでターナーの絵のようだ。……だが」

言葉を区切り、ふと窓際に視線を移す。
床に落ちた影が、夕陽の角度とは合わず、妙に濃く、妙に長い。
風もないのに、わずかに揺らいでいるように見えた。

「……?」

かんぴょう先生は眼鏡を直し、じっと影を見つめた。だが次の瞬間にはただの夕暮れの陰影に戻り、何事もなかったかのように消えていった。

創作小説の挿絵

「先生、どうかしました?」

近くの生徒が問いかけると、かんぴょう先生はかすかに笑みを浮かべた。

「いや……少し光の具合が気になっただけだ。続けなさい」

廊下から覗いていた悠夜たちは、互いに小さくうなずき合った。
──やはり、先生も気づいた。

そのとき背後から低い声がした。

「……おかしいと思うたのは、わしだけやなかったか」

振り返ると嵐山先生が立っていた。大きな体を組み、廊下の窓越しに光と影を交互に眺めている。

「この校舎、妙な気配がある。京都でも古い寺に行くと、よう似た風を感じることがあるんや。人の気が澱むと、影まで濃くなる」

悠夜たちは息をのんだ。
嵐山先生の声は普段の軽妙さを欠き、真剣そのものだった。

やがて先生は肩をすくめ、いつもの調子に戻った。

「ま、気のせいかもしれんけどな。せやけど──気づいた以上は放っとけん。わしも少し気ぃつけとくわ」

その言葉に、悠夜の胸は不思議に高鳴った。
生徒だけでなく、教師たちもまた、この異変に巻き込まれ始めている。