鬼を狩る子孫 第三話 新任校長の履歴書(14)

忍び込む囁き

翌日の放課後、校舎の廊下はいつになく重苦しい空気に包まれていた。
窓の外には柔らかな夕陽が差しているのに、建物の奥へ入るほど、光がどこか鈍く濁って見えた。

「……なんか、今日は薄暗くない?」

蓮が立ち止まり、天井を見上げた。蛍光灯は確かについているのに、光が弱々しく感じられる。

そのとき、教室の方からひそひそと声が聞こえてきた。

「……聞いた?」「いやだな」「影が……」

ふと覗くと、数人の生徒が青ざめた顔で教室の隅を指さしていた。

そこには窓枠に沿って伸びる影があった。
夕陽の角度とは合わない、不自然な影。しかもじりじりと形を変え、人影のように見えたり、ただの濃い闇に戻ったりしていた。

「うわっ……動いたよな、今」
「やめろよ、気味悪い……」

生徒たちはざわめき、足早に教室を出て行った。

創作小説の挿絵

悠夜たちは顔を見合わせた。

「……影が勝手に動くなんて、おかしい」

悠夜が低く言った。
大地は険しい表情で頷く。

「しかも、誰かが囁いてるみたいだった。聞こえなかったか?」

蓮は唇を震わせた。

「うん……“ここにいる” って、そんな声が……」

廊下の風がひときわ強く吹き抜け、窓ガラスがびり、と鳴った。
影はすでに消えていた。だが、残されたざわめきと不安は、確かにそこに残っていた。

悠夜は唇を結び、心の中で呟いた。
──これは、ただの偶然じゃない。
何かが、この学校に忍び込み始めている。