鬼を狩る子孫 第三話 新任校長の履歴書(12)
由比ガ浜の語らい
由比ガ浜の砂浜には、初夏の光がきらきらと降り注いでいた。
白い波が寄せては返し、砕けた飛沫が陽を受けて細かな宝石のように舞い散る。潮風は少し湿り気を帯びながらも爽やかで、頬をなでると心まで解き放たれるようだった。
砂浜には観光客が歩き、子どもたちが裸足で走り回っている。カップルは記念写真を撮り、沖合にはサーファーが波を追っていた。にぎやかさの中に、不思議と鎌倉らしい落ち着きが漂っていた。
「ええ景色やなあ」
嵐山は潮風を胸いっぱいに吸い込み、海を眺めながら言った。

「京都の鴨川はな、川沿いにカップルが等間隔で並ぶんが名物や。まるで図面を引いたみたいにきれいに並ぶんや」
蓮が首をかしげた。
「ふうん……そうなんですか」
「それに比べて、こっちはどうや」
嵐山は砂浜を指し示した。
「サーファーも観光客も、好きな場所に勝手に散らばっとる。きちんとした列はないけど、その分、自由でにぎやかやな。土地が違えば、景色の “主役” も変わるわけや」
蓮がくすっと笑った。
「先生の見方って、ちょっと面白いです」
嵐山はにやりとし、さらに砂浜の奥を指した。
「けどな、この浜はただの遊び場やない。むかし三代将軍の源実朝が、宋と交易しようとして大船を造った場所や。けど船があまりに大きすぎて、この海から出せんかったんや。浜辺に座り込んだまま、まるで動けんカメみたいになってしもうたそうや」
「へえ……そんなことがあったんだ」
蓮が目を丸くする。
「失敗はしたけどな、夢を描いたこと自体がすごいんや」
嵐山は砂をすくい、指の間からさらさらとこぼしながら言った。
「京都は千年の都。落ち着いた年長者のような風格がある。鎌倉は武士の都。若さと力でぐいぐい押す青年のようや。どっちが上とか下やのうて、両方そろって日本の歴史を作ってきたんやで」
大地が腕を組み、真剣な顔で尋ねた。
「もし実朝の船が出てたら、日本は変わってたんでしょうか」
「歴史に “もしも” はない言うけどな、考えてみるのは大事やで」
嵐山は目を細めて海を見つめた。
「夢を持った人のおかげで、今につながる道が開けるんや」
悠夜は潮騒を聞きながら、胸の奥に不思議なざわめきを感じた。
──歴史はただの過去じゃない。今の自分たちとも、どこかでつながっているのかもしれない。
夕陽が水平線に傾き、海と空が黄金色に染まっていく。
嵐山は立ち上がり、豪快に笑った。
「ま、むずかしい話はさておき──次の授業、楽しみにしときや!」
三人は顔を見合わせ、なんとなく胸が熱くなるのを感じていた。


