鬼を狩る子孫 第三話 新任校長の履歴書(11)
白い薔薇の証言
鎌倉文学館の庭園には、白や紅の薔薇が咲きほこっていた。
旧前田侯爵の別邸だった洋館を背景に、花々は初夏の陽射しを受けて鮮やかに輝いている。
悠夜、蓮、大地の三人は、休日を利用してふらりと訪れていた。
「わあ、すごいな……」
蓮が思わず声をあげる。
花の香りが風に乗り、三人を包み込んだ。
その時、薔薇の前に立つ一人の女性が振り返った。
つばの広い帽子に白いブラウスをまとい、胸元には一輪の白薔薇を飾っている。
気品を漂わせながらも、柔らかな微笑を浮かべていた。

「その鞄……あなたたち、この町の学校の生徒さんでしょう?」
女性は悠夜たちの持つ学生鞄に目をとめて言った。
「そうです。僕たち、あの学校の生徒です」
悠夜が素直に答えると、女性は小さく頷き、白薔薇を指先でそっと撫でた。
「私は “ホワイトローズ” と呼ばれてきたの。白い花が好きだからよ」
彼女は冗談めかしてそう言い、三人に向き直った。
「昔、ボストンであの校長先生を知っていたの。まだ若い頃の彼をね」
三人は息をのんだ。
「出会った頃の彼は、本当に素朴で、夢に燃えていたわ。ボストンの街を流れるチャールズリバーという大きな川でね、学生たちがよくボートを漕ぐの。その中に彼もいて、仲間と一緒にオールを動かす姿をよく覚えている。未来を信じて疑わない表情だった」
蓮が身を乗り出す。
「じゃあ、今とは全然違うんですか?」
「……ええ。途中からね、笑顔が消えていった。目の奥に影を宿すようになったの」
ホワイトローズは小さく首を振った。
「何があったのか、私には分からない。でも、あの人はかつて、本当に真っ直ぐな青年だったのよ」
そう言って微笑むと、彼女は薔薇の間をすり抜けて去っていった。
白い花弁が風に揺れ、まるで彼女の名残を示すかのように光っていた。
三人はしばらく言葉を失っていた。
校長は怪しい大人であると同時に、かつては夢を抱いた若者でもあった──その複雑な事実が、胸に重く残った。


