鬼を狩る子孫 第三話 新任校長の履歴書(9)
町の噂話
夕暮れの長谷の町を、大地は買い物袋を片手に歩いていた。
母に頼まれ、醤油と野菜を買いに行った帰り道。
観光客向けのカフェや土産物屋と、昔ながらの八百屋や魚屋が入り交じる通りは、昼間の賑わいが一段落し、地元の人々の買い物で落ち着きを取り戻していた。
大仏のある寺の参道の方角にはまだ観光客がちらほらと残り、坂道の先には文学館の屋根が夕陽に染まって見えている。
袋を下げたまま歩いていると、八百屋の前で立ち話をしている二人の女性の声が耳に入った。
どちらも見覚えがある。悠夜の学校のPTAで顔を見かけるおばちゃん達だ。

「ねえ、あの校長先生、本当にすごい人なのかしらねえ」
「新聞にハーバード卒って出てたわよ。立派じゃない」
「でもさあ、昔を知ってる人がいるって聞いたのよ。前にいた学校の知り合いから」
「へえ、そうなの?」
「なんか、あんまりいい話じゃないみたい。詳しくは分からないけど……」
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声が小さくなり、大地にはそれ以上は聞き取れなかった。
だが「校長の昔を知っている人がいる」という言葉だけが、強く耳に残った。
(やっぱり……何かあるのか?)
普段は慎重で、余計なことに首を突っ込みたくない大地。
けれど、悠夜や蓮に知らせなければならないという思いが胸に広がった。
買い物袋を持つ手に力がこもる。
夕暮れの石畳に、大地の影が長く伸びていった。


