連句(29)
発句を夏とする式目が暫く続きましたが、今回より秋を発句とする式目に替えることにしました。それに合わせてか、リアルの世界も少しばかり涼しさが出てきたように感じます。この時期は夏と秋の境目で、まさに「秋来ぬと目にはさやかに見えねども」という繊細な感覚を呼び覚まされる季節となりました。
連句(29)『白帝の巻』
令和7年9月11日(木)〜R7年9月14日(日)
連衆 游々子 典子 二宮 紀子
(発句) 白帝のけぶり立ち初む杣の小舎 游々子
(脇句) あの道行かば浅間の山へ 典子
(第三句) 急坂に彼岸花見る棚田にて 二宮
(第四句) 八洲国の水まんまんと 紀子
(第五句) 安宿に女うずむる夏の雨 游々子
(第六句) 芭蕉も迷う水滴の色 二宮
(第七句) 深川の骨董市の賑はへり 典子
(第八句) 百万遍で菜箸買うて 紀子
(第九句) 愛妾と荒波こゆる隠岐の海 游々子
(第十句) 都恋して東海見る 二宮
(第十一句) パスポート十年用で更新し 典子
(第十二句) モンマルトルの友にラインす 游々子
(第十三句) 初夢は月見うどんをフランスで 二宮
(第十四句) 毛皮着て観るミロのヴィーナス 典子
(第十五句) 美しき神の比率の黄金比 紀子
(第十六句) エーゲの島々文明の湧く 二宮
(第十七句) 哲人は無知てふ悟り花無情 游々子
(第十八句) 遥かなる空春星満つる 典子
(第十九句) 麗らかにチコちゃんを見てタモリ見て 紀子
(第二十句) 近所の道も新鮮散歩 二宮
(第二十一句) 迷える羊池の辺の逍遥に 紀子
(第二十二句) 熱海愛せし明治の文豪 典子
(第二十三句) 夕立ちに光と音の共演す 二宮
(第二十四句) 右手(めて)に菜箸左手(ゆんで)にグラス 游々子
(第二十五句) 合コンで電話番号渡されて 典子
(第二十六句) やんわり断るショートメール 紀子
(第二十七句) 三四郎岐阜のあたりで迷いをり 二宮
(第二十八句) ニュートリノ舞ふ深き坑道 游々子
(第二十九句) 無月なる社に灯る石灯籠 紀子
(第三十句) 先師の句碑に蜻蛉とまる 典子
(第三十一句) 備讃瀬戸に白き航跡城の秋 游々子
(第三十二句) 昔ばなしのまちに降り立ち 紀子
(第三十三句) 豊かなる歴史の流れ瀬戸の海 二宮
(第三十四句) エレキテルてふ鎖国の灯 游々子
(第三十五句) 艶めきしライトアップの花の寺 典子
(挙句) 日永の旅の土産どっさり 紀子
白帝のけぶり立ち初む杣の小舎
俳句では白帝が秋を表す季語になっています。秋を擬人化したもので、冬の季語としては冬帝というものがあります。杣(そま)とは樵(木こり)のことで、律令の時代には杣の司という役職があり、山林が厳しく管理されていたものでした。句意はそんな木こり小屋から薪を燃やす煙が立ち始め、秋が来たことを告げるものとなっています。
あの道行かば浅間の山へ
杣小舎の煙を補完するものとして、脇では浅間山が添えられました。浅間山は浅間三筋と称される今も煙を棚引かせる活火山です。
急坂に彼岸花見る棚田にて
第三句では新たな展開をするところで、発句や脇句とは関連性を持たせない句となります。棚田には彼岸花が似合います。
八洲国の水まんまんと
八洲(やしま)とは日本のことで、古事記での国産みにおいて、先ずは八つの陸地を作ったことより使われている言葉です。棚田はそんな日本における最も美しい景観の一つです。
安宿に女うずむる夏の雨
長くあるいは激しく降り続く雨の安宿にうずくまっている女、普通の女ではないことを連想させます。サマーセット・モームの短編『雨』に出てくる売春婦のような女でしょうか。
芭蕉も迷う水滴の色
奥の細道に「一つ家に遊女も寝たり萩と月」という句があり、前句の安宿の女を本句では芭蕉の句に結び付けています。
深川の骨董市の賑はへり
深川は芭蕉庵のあるところ。深川富岡八幡の骨董市は江戸より続く風物詩です。
百万遍で菜箸買うて
骨董市で買った菜箸、江戸の深川から京都の百万遍に場所が移って来ました。
愛妾と荒波こゆる隠岐の海
京都大学の脇に百万遍知恩寺という浄土宗の寺院があります。この百万遍という名称は、京都で疫病が流行ったときに後醍醐天皇が知恩寺の僧侶を宮中に招き、百万回念仏を唱えさせると疫病が収まったことから、後醍醐天皇は知恩寺に百万遍という冠を付けさせたそうです。その後醍醐天皇は北条氏によって隠岐に流されたとき、阿野廉子という寵姫を同行させています。
都恋して東海見る
隠岐から見ると都は東方に当たります。
パスポート十年用で更新し
ここから舞台は海外に移ります。
モンマルトルの友にラインす
海外との交信も昨今はラインで行う時代になりました。
初夢は月見うどんをフランスで
本句は冬の月を詠む座ですが、それを正月での月見うどんとしたところがユニーク。
毛皮着て観るミロのヴィーナス
1月のパリは寒いです。ルーブル美術館へ行くのは毛皮のコートが必要。一方、ビーナスは上半身に纏うものがなく、寒くはないだろうかと余計な心配。
美しき神の比率の黄金比
黄金比とは1:1.6の比率で、この比率が美を生んでいると言われています。ミロのビーナスは身長に対して足元からお臍までの比率が黄金比になっています。
エーゲの島々文明の湧く
エーゲ海の陽光があの美を生んだのでしょう。
哲人は無知てふ悟り花無情
ソクラテスは「無知の知」という悟りを得ました。この無知の知は花の無情に通じはしないでしょうか。
遥かなる空春星満つる
哲学は星を見ることから始まるものです。ソクラテスからアインシュタインまで2000年余り。星の見方も随分と変わって来ました。
麗らかにチコちゃんを見てタモリ見て
「麗らか」は春の季語。NHKのこの二つの番組を見ると、麗らかな気持ちになります。
近所の道も新鮮散歩
散歩は脳を活性化し、見慣れた近所の光景も新鮮に見えてきます。そんな時にこそ良い句は生まれるものです。
迷える羊池の辺の逍遥に
ストレイ・シープの三四郎。先日のブラタモリは東大が舞台となっていました。三四郎池は断層によって出来たそうです。
熱海愛せし明治の文豪
夏目漱石は修禅寺や湯河原で温泉を楽しんでいます。当時の東海道線は国府津から御殿場を経由して沼津に到るもので、小田原から熱海や伊豆へは軽便と呼ばれる一輌からなる簡易車両が使われていました。熱海の駅前には当時の軽便が展示されています。
夕立ちに光と音の共演す
夕立に伴う雷、光と音の共演とは言いえて妙です。
右手(めて)に菜箸左手(ゆんで)にグラス
この連句の3日目に我家で会食があり、前句の共演を右手の箸と左手のグラスに例えてみました。元歌は言わずと知れた田原坂の歌です。
合コンで電話番号渡されて
前句を合コンでの飲み会とした句です。
やんわり断るショートメール
断るのにショートメールを使ったのが面白い!
三四郎岐阜のあたりで迷いをり
熊本から汽車で上京した三四郎は、岐阜あたりで乗り込んできた女と名古屋で同じ宿に泊まることになりました。
ニュートリノ舞ふ深き坑道
岐阜にはニュートリノ発見につながったカミオカンデがあります。
無月なる社に灯る石灯籠
宇宙から荘厳な社へ。
先師の句碑に蜻蛉とまる
そこには先師の句碑が建てられています。
備讃瀬戸に白き航跡城の秋
この日、前々句の作者が、伝統俳句協会の全国大会で岡山に行っていたことで、こんな句を。
昔ばなしのまちに降り立ち
昔ばなしとは「桃太郎」のお話。
豊かなる歴史の流れ瀬戸の海
瀬戸内海には一日に二度、太平洋からの潮の満ち引きがあります。その潮流は歴史の流れを思わせます。
エレキテルてふ鎖国の灯
岡山に対面する讃岐は、江戸時代に平賀源内という蘭学者が生まれた土地で、彼は蘭書をもとに独学で、静電気の仕掛けを作りました。オランダ語で電気のことはエレキテルと発音されます。
艶めきしライトアップの花の寺
電気でライトアップされた花の寺、ハッピーエンドの準備がされています。
日永の旅の土産どっさり
今回の連句の旅でも、沢山の土産がありました。めでたしめでたし!


