鬼を狩る子孫 第一話 見えない請求書(18)
(18)
竹内先生は保健室のベッドで浅い眠りについていた。
顔色はまだ悪いものの、あの虚ろな光は消えている。
蓮は小声で悠夜にささやく。
「なあ……あの “支払い” とか “契約” って、結局なんなんだ?」
悠夜は窓の外を見やった。
校庭の隅、まだ残る白い霧が、ゆらりと形を変えている。
それはまるで、古い帳簿のような長方形の塊。
ページが勝手にめくられ、そこから黒い文字が浮かび上がる。
――【請求額:未払い】
――【期限:継続】
蓮が身を震わせる。
「なんか……金の話じゃねぇな、これ」
悠夜は頷いた。
「そう。これは “心” の請求書だ。
誰かの不安や後悔を集めて、利息みたいに膨らませていく。
影はそれを “契約” と呼んでるんだ」
「心の……利息……?」
蓮は眉をひそめる。
「ってことは、学校の空気が暗くなってるのも、あの請求のせいかよ!」
ちょうどその時、竹内先生がうめき声をあげた。
「……やめろ……まだ……払えぬ……」
蓮と悠夜は駆け寄る。
先生の手は、まるで見えない鎖に縛られているように震えていた。
悠夜は勾玉を取り出し、そっと先生の額にかざした。
淡い光がほころび、先生の苦悶は少しずつ和らいでいく。
だが同時に、霧がざわめいた。
窓の外に黒い文字が浮かぶ。
――《契約者、確認》
――《次の徴収先を指定せよ》
蓮は息をのんだ。

「……次の徴収先? まさか……オレたちに来るのか?」
悠夜は唇をかみしめた。
「違う…… “学校そのもの” だ」
教室や廊下、昇降口の方から、じわじわと黒い霧が広がりはじめていた。
それは生徒一人ひとりの心に忍び寄り、次なる “契約” を求めている。
蓮は思わず拳を握った。
「ふざけんな……! オレたちの学校を、ただの借金の帳簿にさせるかよ!」
その声に応えるように、勾玉の光がいっそう強く瞬いた。


