鬼を狩る子孫 第一話 見えない請求書(17)

(17)
勾玉を掲げた瞬間、教室の窓という窓が一斉に鳴り響いた。
ガラスが震え、机の上に置かれた教科書が勝手にめくれていく。

竹内先生の背後に貼りついていた影は、うねるように広がり、黒い手を無数に伸ばしてきた。
「支払いは終わらぬ……次は子らの心だ」
影の声が、全員の頭に同時に響き渡る。

蓮が叫ぶ。
「悠夜! 早く!」

悠夜は歯を食いしばり、勾玉を胸に押し当てた。
その瞬間、冷たいものが自分の体の奥から引きずり出される感覚がした。
――これは、自分の影。
蓮がすかさず隣で手を重ねる。

「一人じゃムリだろ? だったら二人で半分こだ!」

二人の影が床に重なり、勾玉の光の中で溶け合う。

創作小説の挿絵

やがて、影は光に焼かれるように細い糸となり、竹内先生を縛っていた黒い鎖へと絡みついていった。

「う……あああっ……!」
竹内先生が叫び、額に汗をにじませる。
背中から引き剥がされるように、黒い影が霧の渦の中に吸い込まれていく。

――バキンッ!

空気を裂くような音がして、霧の渦が一気に崩れ落ちた。
教室を覆っていた重苦しい気配が、嘘のように晴れていく。

竹内先生は床に倒れ込み、肩で荒い息をしていた。
その目には、もう先ほどの虚ろな光はなかった。

蓮は大きく息を吐き、へたり込む。
「……っぶねぇ! でも、これで “支払い” は止まったんだよな?」

悠夜はまだ胸に残る冷たい痛みを押さえながら頷いた。
「一時的には、な。でも……影は完全に消えちゃいない。依り代を失っただけだ」

窓の外を見れば、校庭の隅にだけ、まだ薄い霧が漂っていた。
そこから、かすかな囁きが聞こえる。

――《次は……契約の本体》

悠夜と蓮は互いに顔を見合わせた。
影との戦いは、まだ始まりにすぎなかった。