鬼を狩る子孫 第二話 影を落とす契約書(19)

封印の誓い

数日後。町の図書館。
悠夜、蓮、大地の三人は、あの紙片と同じ書庫の一角に腰を下ろしていた。

机の上には、司書から借り出した古文書が広げられている。
そこには、百年前にこの地で交わされた「誓約」の記録が残されていた。

「……やっぱりそうだ」

悠夜が指で行をなぞる。

「 “坑道に眠るものを起こさぬよう、守り人は代々これを封じ、子孫に誓いを継ぐべし” 。これが封印の正体だ」

蓮が感心したように口をとがらせる。

「つまり、あの札とか祠はただのおまじないじゃなくて……ちゃんと意味があったってことか」

大地はしみじみとつぶやいた。

「俺たちの町は、昔の村の人たちが守ってきた誓いの上にあるんだな」

悠夜は黙って頷いた。
坑道の前で見た鬼の姿。歯ぎしりと共に闇へ消えた影。
あれは完全に滅んだのではなく、封印に戻されたのだろう。

蓮が腕を組み、少し真剣な顔になる。

「でもさ、また誰かが欲に負けて封印を壊そうとしたら……」

悠夜はまっすぐ前を見据えた。

「その時は、俺たちが止める」
「おー、勇ましいねぇ」

蓮が茶化す。

大地も笑ってうなずいた。

窓の外では、町の喧騒が聞こえている。
子どもたちの笑い声、車の走る音。
そこにもう “村” の面影はない。
だが、三人の胸には確かに、あの山奥の闇と、先人の誓いの重みが刻まれていた。

「さあ、もうすぐ部活の時間だぞ」

大地の声に、三人は立ち上がった。

図書館を出ると、まぶしい午後の陽射しが降りそそいでいた。

創作小説の挿絵

――鬼は封じられ、町は日常を取り戻す。

けれども少年たちの瞳には、ただの日常を超えた光が宿っていた。

(第二話・完)
引き続き第三話をお楽しみください。