鬼を狩る子孫 第二話 影を落とす契約書(17)
封印の破れ
坑道から地上に戻った悠夜、蓮、大地の三人。
夜風の冷たさに胸をなでおろしたその時――。
「やはり、お前たちか」
声と共に姿を現したのは村尾だった。懐中電灯の光が三人の顔を照らし出す。
「村尾先生……なぜここに?」
悠夜が問いかける。
村尾は答えず、坑道の入口を見つめていた。
額には汗が滲み、指先はかすかに震えている。
「……お前たちは余計なことを見た」
「余計なこと?」
蓮が詰め寄る。
「封印を解いたのは……先生なんですか?」
大地の言葉に、村尾の肩がびくりと揺れた。
沈黙ののち、村尾はしぼり出すように言った。
「私は……ただ、金が欲しかっただけだ。あの坑道を業者に貸せば儲けになる。観光にすることも、鉱石を掘らせることもできる。だが入口に貼られた古い札が邪魔だった。あんなもの、ただの迷信だと思ってはがしてしまった……」
三人は息をのむ。封印を解いたのは、村尾自身だった。
悠夜は思わず声を上げた。

「先生……あの札は迷信なんかじゃない! 俺たちを遠ざけるためじゃない。鬼を坑道の奥に閉じ込めておくために貼られていたんだ!」
蓮がうなずき、手帳を握りしめる。
「村の古い記録にも書かれていました。札は “封印” と呼ばれ、鬼を人の世界に出さないための印だったんです!」
その時、坑道の奥から低いうなり声が響き渡った。
地の底を震わせるような音に、三人も村尾も凍りつく。
「……出てきたか」
村尾が青ざめた顔で後ずさる。
闇の中から、巨大な影が姿を現した。血走った眼、軋む牙――鬼だ。
鬼は三人を見据え、ギリリと歯ぎしりをした。
悠夜は立ち尽くしたまま、必死に声を張り上げる。
「封印は解かれても、俺たちは負けない! 二度とお前に村を荒らさせはしない!」
鬼の目がわずかに揺れた。
その瞬間、坑道の奥に残っていた札が風に舞い、ひときわ強い光を放つ。
光は鬼を包み込み、呻き声と共にその姿を闇に押し戻していった。
――封印はまだ完全には消えていなかったのだ。
村尾はその場に膝をつき、顔を覆った。
「私は……愚かだった……」
悠夜たちは互いに顔を見合わせ、胸の奥でようやく安堵を感じた。
夜明け前の空に、かすかな光が差し始めていた。


