鬼を狩る子孫 第一話 見えない請求書(16)
(16)
チャイムが鳴っても、教室には沈黙が広がっていた。
子どもたちは鉛筆を握ったまま、まるで糸の切れた人形のように机に突っ伏している。
窓の外からは霧が流れ込み、床の隙間に溶けていった。
蓮が小声で言う。
「……なあ悠夜、これ……やばくね? まるで全員から一斉に “なにか” 吸い取られてるみたいだ」
悠夜は感じていた。
胸の奥に冷たいものが伸びてきて、心臓をしめつける。
まるで「見えない請求書」が机ごとに置かれ、知らぬ間に支払いが始まっているかのようだった。
黒板の前に立つ竹内先生。
その目は虚ろで、背に絡みつく黒い影が蠢いていた。
だがその中心には、なお人間らしい苦悩の気配が残っていた。
――先生は完全に鬼ではない。
依り代として、強制的に影を背負わされている。
蓮が机を叩いた。
「なあ悠夜! やるしかねえだろ。勾玉で “契約” をぶった切るんだ!」
だが悠夜は首を振る。
「……簡単じゃない。契約を断ち切るには、自分の影を差し出す必要がある。
もし俺がそうしたら……俺の中の “影喰い” が呼び覚まされるかもしれない」
蓮は言葉を失った。
祠で見た巻物に記されていた警告――「子孫に宿る影」。
それが甦れば、竹内先生以上の災厄になるかもしれない。
そのとき。
勾玉が勝手に光を放ち、教室の天井に霧が渦を巻いた。
霧の中から聞こえる声。
――《次の支払いは、全校生徒》
蓮が悠夜の肩をつかむ。
「もう迷ってる暇ねえ! おまえがやるなら、オレも一緒に影を差し出す! 二人なら……何とかなるかもしんねえだろ!」
悠夜は蓮の瞳を見つめた。
不安も恐怖もある。
けれど、確かにそこには「信じて託す」光が宿っていた。
悠夜はゆっくりと勾玉を掲げる。
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「……わかった。俺とお前で、やるんだ」
勾玉の光が強くなり、竹内先生の背後に絡みついた影が一斉にざわめき出す。
学校全体を覆う支払いと、二人の決断。
――決着の時は、すぐそこに迫っていた。

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