鬼を狩る子孫 第一話 見えない請求書(12)

(12)
竹内先生の顔色は、日に日に悪くなっていた。
目の下のくまは濃く、黒板に向かう背中は、まるで糸で操られているかのようにぎこちない。

「今日の課題は……」
チョークを走らせる手が震え、板書の文字はところどころ乱れていた。
その隙間に、またしても浮かんでくる。

――【支払い】
――【請求書】

授業を受けている生徒たちは誰も気づかない。
だが悠夜と蓮には、はっきりと見えた。
文字から、薄い霧が立ちのぼっている。

「……やっぱり先生だ」
蓮が小声でつぶやく。
「鬼が、先生を依り代にしてるんだ」

竹内先生の瞳がふと濁り、教室の空気が一気に重くなる。
その視線が悠夜をとらえた瞬間、頭の奥に声が響いた。

――《支払いの刻は近い》

胸の奥が凍りつくようだった。

創作小説の挿絵

だが、ポケットに忍ばせた勾玉がふっと温もりを返してきた。
光はわずかだが、影を押し返す力があることがわかる。

「蓮……手伝ってくれ」
「お、おう! 何すりゃいい!?」

悠夜は黒板に浮かぶ奇怪な数式を凝視した。
「これは数式じゃない。影を呼び寄せる“呪符”だ。解きほぐさないと……!」

蓮はノートを広げ、悠夜の言葉をなぞるように書き直していく。
数字の並びをひとつひとつ正しい形に戻すたび、黒板の霧が薄れていく。

「すげー! 数式を “直す” ことで影が消えてくぞ!」
「理を正せば、影は立てなくなるんだ……!」

最後の記号を消し去った瞬間、勾玉が白く光を放った。
その光は竹内先生の身体を包み込み、霧を追い払っていく。

先生は机に手をつき、苦しそうに息を吐いた。
一瞬だけ正気を取り戻したように見え、唇がかすかに動く。

「……逃げろ……やつらは…… “請求者” だ……」

次の瞬間、先生は力尽きるように倒れ込み、教室中が悲鳴に包まれた。

悠夜と蓮は顔を見合わせる。
請求者――?
それは鬼の別名なのか、それともまだ別の存在なのか。

答えは、まだ霧の中にあった。