鬼を狩る子孫 第一話 見えない請求書(9)

(9)
竹内先生の授業は、どこか冷たかった。
数式を黒板に書く手が妙に速すぎて、目で追えない。
しかも、数字のすき間に、見覚えのない奇妙な記号が混じっている。

「これ……算数じゃないよな」
隣の席の蓮が小声でつぶやく。

悠夜もまた、黒板の隅にちらつく霧の影を見逃さなかった。
数字がゆがんで揺らめき、そこから白いもやが立ちのぼっている。

創作小説の挿絵

竹内先生は、生徒たちの視線を集めるようにわざとらしくチョークを止め、ゆっくり振り返った。
「大事なのは、数字に“従う”ことだ。計算とは、心を差し出す行為だよ」

その目が一瞬、ぎらりと光った。
教室はぞわりと冷え、子どもたちは一斉に背筋をこわばらせた。

蓮だけが、なぜか声をあげた。
「先生、それって算数じゃなくて……お祓いみたいなもんですか?」

クラス中が凍りついた。
竹内先生の口元に、かすかな笑みが浮かぶ。
「お祓い……か。面白い表現だな。だが、この式を解けなければ……“支払い”は、続いていく」

黒板に浮かんだ数字が、ざわりと揺らいだ。
その瞬間、悠夜の耳に再びあの声が響いた。
――《支払いは終わらない。誰も逃れられない》

蓮は拳を握り、必死に笑顔を作って悠夜にささやいた。
「やっぱりだよ……竹内先生、絶対ただの先生じゃない」

悠夜はうなずいた。
(この学校の“霧”は、やっぱりここから広がっている……)

黒板の上で揺れる数式は、霧のようにゆっくりと形を変え、鬼の面の輪郭を描き始めていた。