俳句的生活(338)-連句(20)-
前回の連句でも述べましたが、ラインをツールとしての連句は、旅行しているときでも有効であることが、今回実証されました。このブログはパソコンで記していますが、インターネットへの接続は携帯のテザリングで可能で、速度面でも問題はなく、快適に作業をしています。
連句(20)『七夕の巻』
令和7年 5.25(日)〜5.27(火)
連衆 二宮 紀子 典子 游々子
(発句) 七夕や進化宇宙の語り聞く 二宮
(脇句) 光年を煌めく星涼し 紀子
(第三句) 俊太郎の詩集一冊手に取りて 典子
(第四句) 浅間を見ゆる山荘暮らし 游々子
(第五句) 月の海左回りの舞芒 二宮
(第六句) 運動会のリレースタート 典子
(第七句) 秋の風早くも次の旅支度 紀子
(第八句) 何はともあれ撰ぶ利酒 游々子
(第九句) 思春期に恋には苦き若さあり 二宮
(第十句) 同窓会の席は隣で 典子
(第十一句) アメリカンドリーム夢は幻に 紀子
(第十二句) 風とともにか去てゆくらん 二宮
(第十三句) 冬満月飛鳥遺跡を照らしをり 典子
(第十四句) 朱雀門広場の帰り花 紀子
(第十五句) 平安の盗人ベニスに酔ひしれし 游々子
(第十六句) 日本語上手はアニメのおかげ 典子
(第十七句) 梶井もと何かが埋まる古墳あり 二宮
(第十八句) 一丁目一番地の地虫 紀子
(第十九句) つづら折る断層崖の藤の花 游々子
(第二十句) 天神前の甘味屋の椅子 典子
(第二十一句) 刀伊とはとググる太宰の権帥 游々子
(第二十二句) 夢浮橋へと頁繰る 紀子
(第二十三句) 日傘して駅より宇治の街歩き 典子
(第二十四句) 平等院に頼政果てる 二宮
(第二十五句) 恋心お洒落心はいつまでも 紀子
(第二十六句) 残して発ちし静のオダマキ 游々子
(第二十七句) 英国の田舎の庭の雨上り 典子
(第二十八句) 湖沼地方をオースティンと 二宮
(第二十九句) 仕舞い湯の窓より眺む十三夜 游々子
(第三十句) ワインのコルク抜きし秋の夜 紀子
(第三十一句) 天高くモンゴル馬のかけ始め 二宮
(第三十二句) 師匠伝授の左おっつけ 游々子
(第三十三句) 浮世絵の彫師摺師も相撲好き 典子
(第三十四句) 長屋育ちの江戸粋自慢 二宮
(第三十五句) 消息の蓼科よりの花便り 紀子
(挙句) 喜寿過ぎて読む『青春はうるわし』 游々子
七夕や進化宇宙の語り聞く
「七夕」を季語とした発句で連句が始まりました。今回の連句は、発句で夏を詠むことを式目としていて、俳句の世界では七夕は秋の季語となっているので適切ではないことになるのですが、もともと歳時記の方に無理があるので、本会では妥当としています。本句は七夕の日にビッグバン宇宙のことを語る人が居たということで、我々が子供のときはあり得なかった光景です。
光年を煌めく星涼し
「光年」は宇宙を語るときの距離の単位で、脇をかためています。ここでは「涼し」が夏の季語となっています。
俊太郎の詩集一冊手に取りて
第三句では場面を大きく展開させる処で、谷川俊太郎の詩集を出して、連句を文芸の世界へ誘おうとしています。
浅間を見ゆる山荘暮らし
俊太郎は北軽井沢の別荘で過ごしていたので、そこからは浅間山がよく見えたであろう、とした句。
月の海左回りの舞芒
浅間から芒を連想し、左回りの五芒星とした句(?)浅間と芒からは芭蕉の更科紀行の最後の句「吹き飛ばす石は浅間の野分かな」が連想されます。
運動会のリレースタート
そういえば運動会のリレーは左回りだった。もう長らく走ることはしていない身となってしまった。
秋の風早くも次の旅支度
昔は運動会といえば秋と決まっていたものだが、最近は9月はまだ炎暑なので、5月に行われることが多くなっているそうです。
何はともあれ撰ぶ利酒
旅といえば今年4月の初めに、大学の友人4人で吉野に行ったことが思い出されます。その宿の食事には吉野の酒を三種類飲み比べるオプションが付いていて、格別に美味しかった。食事の席にはカナダからの旅行客がいて、トランプ関税が話題になり、結構面白かったです。
思春期に恋には苦き若さあり
同窓会の席は隣で
恋の座の二句です。同窓会で巡り合えるのは幸せです。
アメリカンドリーム夢は幻に
思春期の恋は夢幻であったか。
風とともにか去てゆくらん
Gone with the windですね。
冬満月飛鳥遺跡を照らしをり
幻想的な光景。。
朱雀門広場の帰り花
平城宮跡歴史公園には朱雀門広場があり、遣唐使船の模型などが置かれています。
平安の盗人ベニスに酔ひしれし
朱雀門より平安京の羅城門へジャンプ。昭和25年、三船敏郎が主演した黒沢監督の「羅生門」がヴェネチア映画祭でグランプリを獲得しました。
日本語上手はアニメのおかげ
アニメ映画で日本語を習得しているのですね。
梶井もと何かが埋まる古墳あり
梶井基次郎の小説に、桜の下には死体がうまっている、というようなのがありました。
一丁目一番地の地虫
町中の一丁目一番地の土の中には、黄金虫やカブト虫などの幼虫が棲んでいる、、面白い。
つづら折る断層崖の藤の花
断層崖は土地の裂けめ、ドライブの途中、山藤を目にした。
天神前の甘味屋の椅子
どこの天神さんだろうか?
刀伊とはとググる太宰の権帥
大宰府は道真公の天神様で有名ですが、ここには藤原隆家が権帥として下っていた時、刀伊の入寇という事件がありました。「光る君へ」より。
夢浮橋へと頁繰る
NHKの大河では、紫式部も大宰府へ行っていた。夢の浮橋は宇治十帖の世界。
日傘して駅より宇治の街歩き
平等院に頼政果てる
宇治は道長の息子の頼道が馴染み深い。ドラマでは頼道は父親と違って善良ではあるが線の細い公家として描かれていました。
恋心お洒落心はいつまでも
残して発ちし静のオダマキ
この二つは恋の座の句です。
英国の田舎の庭の雨上り
湖沼地方をオースティンと
場所を英国に飛ばしました。オースティンとは長編小説『高慢と偏見』の著者であるジェイン・オースティンのこと。夏目漱石はこの本を、則天去私を体言した作品として絶賛しています。
仕舞い湯の窓より眺む十三夜
この句は秋の月の座の句で、長距離を運転してきた後、山荘でお湯に浸かると疲れが抜けた、と詠んだものです。
ワインのコルク抜きし秋の夜
お風呂から上がったあとの食事はワインで、ということで、作者がサービスしてくれました。
天高くモンゴル馬のかけ始め
信州や甲斐は馬が多い。そこからモンゴル馬へ。
師匠伝授の左おっつけ
稀勢の里以来の日本人横綱誕生!師匠は稽古場で胸を出し、大の里に左からの攻めを伝授したそうです。親方の嬉しそうな笑顔を見ると、こちらまで嬉しくなってきます。
浮世絵の彫師摺師も相撲好き
長屋育ちの江戸粋自慢
東洲斎写楽の浮世絵でしょうか。
消息の蓼科よりの花便り
山荘では山桜が満開となっていました。吉野がまだ三分の状態だったので、それを取り返すことができました。
喜寿過ぎて読む『青春はうるわし』
高校の時に愛読したヘルマン・ヘッセの青春小説を読み返しています。彼の生誕地のカルフに想いを馳せています。
今回は頑張って全句にコメントを付けてみました。本ブログを読まれた方のご理解と一致しているでしょうか。