俳句的生活(304)-鴫立庵での吟行句会ー
小春日和に恵まれた先日の日曜日(11月17日)、あすなろ会は大磯の鴫立庵で11月の例会を行いました。午前10時に庵に集合し、庵の周囲に点在する円位堂などの建築物や数多の石造物を見て廻った後、十畳の道場和室に設えられたテーブルに着座して会を始めました。
俳諧道場は、元禄の時代に初代庵主となった大淀三千風によって開かれたもので、京都の落柿舎と近江の無名庵と並んで、三大俳句道場の一つになっています。
俳諧道場の脇には、西行像が祀られている円位堂があります。(円位は西行の法名)
西行は元武士であっただけに、眼光は鋭く、強健な身体の持ち主に見えます。
当日は、「鴫」を季題とした句を一句、「円位堂」を含む句を一句、雑詠を三句つくることで進めました。
兼題:鴫
千年の詩心抱き鴫の立つ 蒼草
鴫降りし沼地の水のひと騒ぎ 怜
磯鴫の影や夕焼け雲の果て 游々子
じつと立つ鴫の足より暮れゆきぬ 遥香
誘うは南の園へ鴫や発つ 弘介
円位堂を含む句
冬近し三百年(みほとせ)保つ円位堂 怜
茅葺に時雨る音無し円位堂 遥香
ささら波萱に伝ふる円位堂 蒼草
幼紅葉ふと囲みゆく円位堂 游々子
円位堂秋冷え醸す法師像 弘介
雑詠
波の音に如来和らぐ小春かな 蒼草
松手入れ庵の空を広げゆく 遥香
ひらがなの如き曲線松手入 游々子
冬の虹健気な気概虎御前 怜
芭蕉庵句碑をも隠す蔦紅葉 弘介
庵の周囲を囲むように、歴代庵主の句碑が建てられています。その内で十八世鈴木芳如の句は「春の海ささら波して遠からず」というもので、鴫立庵は海にそんなにも近いのかと不思議であったのですが、江戸時代の浮世絵を見ると、庵のすぐ後ろは海となっています。
昔の風情がどんどんと失われていく中で、鴫立庵は元禄の頃の建物が今も残り、貴重なオアシスとなっています。あすなろ会は、年一回ここで句会を催すことを決めて散会となりました。