京大俳句会(2)-第164回(2022年10月)
今回の兼題は百舌鳥です。
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1 赤とんぼ姐や居しわが少年期 幸夫
少年期の遠い日のメルヘン。ねえやへの初恋ーー既視感のあるところがいいのかも。(吟)
2 秋の海水平線は僅かに弧 のんき
「下五」で言いたいことにくっきりした形が見えてきた。(吟)
中村草田男の「秋の航一大紺円盤の中」を本歌にしたものではないかと思う。草田男が大海原の面をとらえたのに対してこれは線をとらえているが、「僅かに弧」の表現効果により、壮大な風景を生み出している。(楽蜂)
3 朝霧に頂き残すのみ比叡 楽蜂
こういう光景はよく見かかるのに、句にするのが難しいもの。「のみ」で「霧と比叡の頂」のすがた生きてきた。「朝霧」だから景も鮮やか。(吟)
吟さんご講評ありがとうございます。たしかに「のみ」に一句を託しました。蕪村に
「不二ひとつうずみのこして若菜哉」があります。対比して鑑賞くださればありがたい。(楽蜂自句解説)
4 柿あおぐ視神経の影透けて 吟
蒼天に柿がくっきり、視神経の死骸がわやわやと透けて混じる錯視の風景。(吟自句解説)
人の眼では光は神経層をくぐりぬけて奥の網膜に到達する。俳句を評価する前に、この解剖学的事実をご存知である作者の博識にまず感心した。自句解説を拝読すると「視神経の死骸がわやわやと透けて混じる錯視の風景」とあり、これはまさに緑内障の典型的な症状である。多分、心象的な暗喩表現とは思うけれども、2句とも生理的必然と向かいあう自分がいる。(楽蜂)
5 キイキイと空引き裂きて鵙の舞う 明美
6 霧立ちぬ桂川発愛宕行き 嵐麿
7 国境の無き大空や鳥渡る 游々子
そうですよね。空には国境がない。でも鳥たちの戦争はあるかもしれない。「大空」よりも「国境」にポイントを置いた書き方のほうが意図がはっきり締まると思う。(吟)
8 ジャパン今欲しいな百舌鳥の逞しさ 嵐麿
この感じ解る気がする。(吟)
9 雪隠も禅の心得身にぞ入む つよし
10 蒼天が好きなら飛べよ鵙の声 游々子
11 たたなづく金木犀の香はいよよ濃し 幸男
12 信長の叱声なるや百舌鳥高音 つよし
信長は、勘の強い人物だった。百舌鳥が鳴いたら「ほととぎす」も鳴かないと殺されてしまう。いいんですか?つよしさん。(吟)
13 白老や月に添い寝の女郎貝 武史
14 八十才少しハードル下げて生き 恒雄
15 非常口よとピクトさん鵙の声 幸夫
16 ひらひらと岸に手を振る紅葉舟 まめ
17 木製の窓を下ろすや鵙日和 まめ
こんな秋晴れの日に、どうして窓を下すのかわからないが、ああ、たぶん上から引き下ろしたのか?。とにかく、ジュラルミン枠が多い昨今「木製の窓枠」は素敵。(吟)
18 百舌鳥高音入歯すすいで口に措く 吟
人体の部品を口の中に収納。俳句十七音のように狭いなあ。(吟自句解説)
19 百舌鳥鳴いて換骨堂に灯がとぼる 楽蜂
20 百舌鳥鳴きて三字二音と心得り 幸男
舌が百枚もあるほど鳴き音目立つ鳥。でも、こう書くとすっきりしてます。ちなみに「鵙」では一音二字。これでは作者の視覚的リズムに波長が合わなかったんですね。(吟)
21 もず泣くな兄さは満洲へ行っただよ 武史
うーん、歌の文句そのままでは、いかがなものか、と思ったが、「もずが枯れ木で鳴いている」ことに共感して、「泣くな泣くな」と言いつつ自分が泣いている。(吟)
現在のメンバーは面識がないとおもったので、お知らせしなかったが「京大俳句を読む会」の代表西田もとつぐ先生が、本年5月13日に逝去された。先生は本会の活動に関心をもたれ、句会にも何回か出席されたことがある。西田先生の俳句研究の一つに満州俳句があり、当会のブログにも『満州俳句史』という優れた論評を寄稿された(2011-05-31ブログ)。最後の御著『満洲俳句ー須臾の光芒は』、昨年の俳人協会評論賞を受賞されたという。この武史氏の句はサトウハチローの詩の一部ではあるが、西田先生への追悼句として評価したい。(楽蜂)
22 鵙の眼に小さき命捕われり 明美
細やかな視線でらえた、獰猛なもずの視線、贄となるべき小さな命はもう逃れられない。(吟)
23 鵙ひと声寺が鐘突き日が落ちた のんき
24 良き仲間居るのに中にもずも居る 恒雄
ここの「もず」は、「良き仲間いる」「のに」、一羽だけ妙なのがいるという意味でしょうか?、
「良き仲間と居れば中にももずがいる」という意味でしょうか。一文字か二文字文字で、まったく違ってくるので惜しい。(吟)